第51回_旧フランスサイズの研究…のハナシ

今回は、フランスで市販の張りキャンバスや…キャンバス用の木枠が売り始められた初期の頃に『規格』として採用されていた “旧フランスサイズの木枠寸法” を研究してみたいと思います。

これにより、現在の木枠の規格や…タテヨコ比率の起源とか由来のようなものが見つけられるかもしれません。

つまり今回は…フランスがメートル法化する前のおハナシです。

フランスではフランス革命後の1799年以降…段階的にメートル法が採用されましたが、それ以前の単位体系は現在とはまったく異なる…英米のヤードポンド法と同様の “十二進法” を使った単位体系でした。

旧単位体系から新たにメートル法に切り替わるということは、長さの単位の概念が変わるだけでなく12で繰り上がっていたものが10で繰り上がるように変更されるわけですから…完全に普及するにはけっこうな期間が必要だったんだと思われます。

それに、革命後の『ナポレオン帝政』や『旧ブルボン朝による復古王政』など…目まぐるしく替わる統治体制もメートル法定着の妨げになったことでしょう。
と言うのも…どこの国でも “計量に関する法律” は統治体制と深い関係を持ちます。旧ブルボン朝が権力を取り戻した “復古王政” の頃は…フランス革命以前の『旧単位』を使うように政権側が市民に強制していたんだろうと思われます。

その後…そのブルボン朝王家が七月革命によって再び倒され、オルレアン朝ルイ・フィリップが王位に就いた “七月王政” と呼ばれる時代に『メートル法以外の単位を公文書に使ったら罰金を徴収する』という過激な法律が作られ、国家体制としては1840年に完全にメートル法に移行出来たようです。
ただやはり、実際に市民の間にメートル法が根付くにはさらに時間がかかったのではないかと思われます。なぜなら、一般市民は日常的に公文書に触れるわけではありませんから “罰金の脅し” は効きませんし、前述のように革命以前の単位の繰り上がりは十二進法でしたから、市民全体に十進法のメートル法が馴染むのには当然時間がかかったことでしょう…。

まぁそれでも…おそらく19世紀後半〜19世紀末までには、市民も含めて完全にメートル法化が済んだんだろうと思われます。

何度も繰り返しますが、メートル法化する前のフランスは現在とは全然異なる単位体系で…十二進法で上の単位に繰り上がるシステムでした。
この旧単位体系は十進法に囲まれて生活している日本人にとっては理解しづらいシステムかもしれません。

そもそも、何で10じゃなくて12でひとまとめにするのか…が、疑問ですよね?

どうやらこれは、12をひとつの “まとまり” だとすると…それを2分の1にしたり、3分の1にしたり、4分の1にしたり、6分の1にしたりしても整数で表現出来る…っていうのが理由のひとつのようです。

2分の1であれば、6。
3分の1であれば、4。
3分の2であれば、8。
4分の1であれば、3。
4分の3であれば、9。
6分の1であれば、2。
6分の5であれば、10。

一方、10をひとつのまとまりとしている十進法だと…整数で表現出来るのは2分の1 (5) と5分の1(2)  の二つのパターンだけ。
半分の半分 (4分の1) すら整数では表現出来ず、2.5とか7.5というように…小数点の力を借りなければ表現出来ないのです。

でも日本での単位体系は十進法。尺貫法を使っていた時代から…基本的には十進法のままです。

日本国内で使われる “十二進法” って、鉛筆やゴルフボール、箱に入った瓶入りの飲料、箱に入ったカップ麺などの数量を数える時の『ダース』くらいしかないでしょう。
瓶飲料などで24本入りの箱なら『2ダース入り』、6個入りのカップ麺の箱なら『半ダース入り』ってことです。
ちなみに、ダースは漢字で書くと『打』です。
みなさんもご存知でしょうが、ダースの上の単位はグロスです。
(12ダースで1グロス)

あ、そう言えば時計の文字盤は12個の目盛がありますよね?
あれも十二進法の一種です。
しかも、目盛が12個有っても『3・6・9・12』の4ヶ所にしか数字が書いてない時計も多いですよね?
そのタイプの文字盤を頭の中にイメージしていただくのが、“長さを測る12進法” を理解する手っ取り早い方法かもしれません… 

例えば直定規の目盛が12進法で付けられていたのなら、『0 (12) 』の部分と半分の『6』の部分に大きめな目盛があるのはもちろん当然ですが…さらにその半分の『3』と『9』の部分にも、それなりに大きめな…読み易い目盛が付けてあるんですよ。
イメージ出来ますか? 
時計の文字盤と一緒ですよ。

でも我々が使ってる10進法の直定規って…『0 (10) 』の部分と半分の『5』の部分だけが大きめな目盛ですよね?
これだと『0 (10) 』と『5』以外の小さい目盛を読み分けるのってけっこう大変じゃないですか?

(残念ながら現在の英米で使われているヤード・ポンド法の直定規では、3と9の大きい目盛りは有りません。なぜなら…インチの下の単位『ライン』が約200年前に廃止され、インチより小さい長さは1/4インチとか1/8インチというように “分数” で表現されるように変わったためです。現在、英米におけるほとんどの直定規の最小の目盛りは1/16インチで刻まれていますので、インチ以下の部分はさながら十六進法のようなシステムになっているのです)

 

ではここで、メートル法化される前の…昔のフランスでの長さの単位をご紹介。

Pied = ピエ = 約324㎜
(これは 英米のフィートに相当する長さだそうです。ただし、フィートより6.5%くらい長いようです)

Pouce = プース = 約27㎜
(英米のインチに相当。ただし、インチより6.5%くらい長い)

Ligne = リーニュ = 約2.25㎜
 (英米のラインに相当。ただし、ラインより6.5%くらい長い。前述のように現在英米にはラインという単位は存在しません)

この、フランスの古い単位は12進法ですから
1ピエ = 12プース = 144リーニュとなります。

前回のメルマガでも少し述べた…1757年刊行の『美術辞典』なる書籍に掲載されている資料・旧フランスサイズの木枠寸法表を、3ダースが読み解き易いように自力でまとめ直し…今回も画像添付しておきました。

※参考資料

この頃の木枠寸法にはP・Mは無く、現行サイズの『F型』に相当する “一種類” しかありません。
PやMは…前にも申しましたが、メートル法導入後に肖像画以外の用途として出現した “風景画” に対応するよう…F型の長辺をそのまま使って短辺は画家の希望に従った長さで作る “特注” で受注生産していたものが、やがて一つ小さいサイズのF型短辺を流用してP型が…二つ小さいサイズのF型短辺を流用してM型が、常時在庫される “規格寸法” として販売されるようになったわけです。

何度か話題に挙げている『画材業界の通説』の通りの比率で作られているサイズなんか、ほとんど無かった…ということをよく覚えておいてください。

さて、F型相当の一つの型しかない旧フランスサイズですが…添付画像の3ダース自作の寸法表では欄がいくつかに分けられていますね。

一番左の欄が『ピエ・プース・リーニュ』での表記。
おそらく当時の職人は、この様な書式の表を使っていたのでしょう

次の欄が、大きい単位であるピエと小さい単位であるリーニュを…真ん中の単位のプースにそれぞれ変換し、普通の10進法表記に書き換えたもの。
つまりピエの値には12を掛け、リーニュの値は…3リーニュを0.25プース、6リーニュを0.5プース、9リーニュを0.75プースとして、すべてプースで表記したものです。
他のサイズと比較するためにも、12進法の呪縛を解き…10進法の土俵に乗せてみました。

その隣が、旧寸法の長さのままメートル法に換算したものです。

そして一番右は、現行のフランスサイズ。
メートル法施行後…おそらく市民の間にメートル法が定着した頃に、㎜単位ではなく㎝単位で表記出来るように製造寸法を見直し、リニューアルさせたものです。(この添付画像の表では㎝単位でなく㎜単位表記で書いてあります)

この『現行のフランスサイズ』の寸法を決める際、旧フランスサイズをそのままメートル法に換算した数値を…単純に四捨五入する程度の寸法調整で㎝表記に対応させたものが大半だったものの、中には15㎜とか18㎜もの寸法変更を要したサイズもあったようです。

あと一つ、旧フランスサイズの寸法表の中には見慣れないサイズが有りますね。
現行サイズには採用されなかった『70号』です。
幻のサイズです 

では旧フランスサイズの寸法表を一番左の欄から見ていきましょう
表の中の『○’』がピエを、『○”』がプースを、『○‴』がリーニュを表します。

ちなみに、前回の後半で話題に挙げたキャンバス布の幅ですが、当時のフランスで多く存在していたのは4ピエ4プースという規格の織機だったようです。

あ、このままじゃ計算しづらいですのでプース表記でまとめてみましょう。
4ピエは48プースに変換出来ますから…48+4プースで、52プースとなります。
1プースは約27㎜ですから
52 × 27 = 1404㎜
つまり約140㎝です。

亜麻布の主要産地の一つであるフランドルの高級な亜麻布は、6ピエ6プースという規格の布でした。
6ピエは72プースに変換出来ますから…72 + 6プースで、78プースとなります。

78 × 27 = 2106㎜
つまり約210㎝です。

では、改めて添付画像の旧フランスサイズの木枠寸法表をご覧になりながら、以前にご紹介した…日本サイズを尺貫法で書き換えた寸法表のことを思い出してみてください。

日本の木工職人は『尺』の単位だけで寸法を再現出来そうな場合は、その下の “寸” や “分” の目盛を読まないで良いように “尺だけで完結” するように強引な翻訳をしていましたよね?
また、『寸』の単位を使っても寸法が再現出来ない場合はその下の『分』も駆使しましたが、そこはなるべく0か5だけを使うようにしていた…っていうことはみなさんも覚えてらっしゃいますよね?

あの時と同じような光景が旧フランスサイズの寸法表にもまざまざと見えて来ましたよ。

もちろんフランスの職人は “翻訳者” ではなく、“立案者” であり “創造者” 。
彼らが彼らなりの発想で、号数や寸法…比率などを世界で最初に作り出したのです。

そこに…どういう意図があってその寸法・比率になったのか、解き明かしてみましょう。

旧フランスサイズ、60号・100号・120号の3行をご覧ください。
この3つのサイズは、プース・リーニュは使わず、ピエだけで完結しています!
とても単純な整数比で寸法が設定されていますよね?
おそらく、この3つのサイズが、最も古くから採用されていた寸法なのだろうと推測出来ます。

60号 = 4ピエ × 3ピエ
100号 = 5ピエ × 4ピエ
120号 = 6ピエ × 4ピエ

いやぁ、シンプルです!
定規の目盛も読み易い!
これなら当時のフランスの木工職人も作りやすかったでしょう。

比率は…
60号が短辺1に対して長辺は1.333。
これはちょいと細めなキャンバスですね。

100号は短辺1に対して長辺1.250。

120号は短辺1に対して長辺1.500。
これは白銀比の長方形よりも…もっと細め。

120号は、前回も申しましたが…『立位肖像画専用』という役目ですから、特に細長い比率であるべきなのです。また、キャンバス布の横幅 (約140㎝) をフルに活用出来る幅 (1299㎜) で作られています。

100号は半身の肖像…あるいは椅子などに腰掛けた肖像に使いやすいよう、タテに対して横幅が少しゆったりと…広めな比率になっています。

60号はその中間にあたる…ちょいと細めの比率なわけですが、おそらくこの3種類の比率こそが…市販キャンバス発売当初の頃のフランス人にとっての理想的なキャンバス比率だったのでは? 
と3ダースは考えています。

『通説』でのF型の比率は…短辺1に対して長辺1.236っていうことになっていました。

確かに、旧フランスサイズの100号はこの通説のF型比率に近いと言えば近い…。
でもこの旧フランス100号の比率の由来は、黄金比の長方形を真っ二つにした比率…などではなく、本当に単純に『長辺5ピエ』対『短辺4ピエ』っていう… “製作しやすい寸法” ということで生まれた比率だったんです!

黄金比だのその真っ二つだのっていう小難しいハナシじゃなく、大きな目盛で測りやすい…職人にとって “良さげな長方形” が、
4:3 (60号) であり、
5:4 (100号) であり、
6:4 (120号) だったわけです!

これらはまさに “原初的な比率” とも言えるでしょう。

それに…前回にも申しましたが100号・120号はどちらも短辺が、そして60号では長辺の方が…張るためのキャンバス布の幅のリミットにピッタリなわけですから、布のムダもまったく出ないんです。
この3つのサイズは…使い勝手のとても良い寸法だったはずです。

あと、以前にもご紹介した…フランスサイズ寸法表には存在しなかったために日本人が昭和初期に独自に考案した『大サイズ』(F150・F200・F300・F500) の比率も、通説で語られる理想のF型比率 “1対1.236” に合わせて作っているわけではありません。

F150の尺貫法時代の寸法は…なんと旧フランスサイズの100号とまったく同じ比率!
F200・F300・F500の尺貫法時代の寸法は…旧フランスサイズの60号とほぼ同じ比率なんです!
っていうか、F300の比率は旧フランス60号と完全に一致しています!

思うに…大サイズを考案した昭和初期の日本の木工職人にとっても、フランスでおそらく最初に作り出された規格の比率は…とても美しく見えていたのかもしれませんね。

『通説』がいつ頃から画材業界内で語られ始めたのか知りませんが、そんなインチキ臭いデマ比率なんかよりも昭和初期の日本の木工職人達は…原初的比率を維持している100号や60号に見られる “普遍的な美しさ” を、敏感に感じ取っていたのでしょう。

ちなみに旧フランスサイズの120号は…60号の短辺を2倍にした大きさです。つまり、60号を2枚つなげた形…。
面積が倍になってるから号数が120ってことなのかしらねぇ?
なんか、妙に納得できちゃいます 

さあ、旧フランスサイズの表をもっと読み解いて行きましょう。

60号とまったく同じ比率のサイズが、実はもうひとつあるんです

4号です!

長辺が1ピエ、短辺は9プースです。
9プースは4分の3ピエのことですから、定規の目盛としては読み易いはず。

ちなみに、4号は60号の…長辺も短辺も4分の1にした長さですから、比率は完全に同じ。つまり相似形。
ちなみに、面積は16分の1。

次は25号にご注目ください。
まず短辺を見てみましょう。短辺は2ピエ!
完結していますねぇ。
長辺は2ピエ6プースですが、6プースはピエの半分ってことです。つまり定規の目盛は当然読み易いはず。
ですから、このサイズも、相当古くから採用されていたと考えてよさそうですね。

これ…よく見てみますと、長辺と短辺…どちらも100号のちょうど半分の長さなんですよ。つまり、面積にすると100号の4分の1!
『100の4分の1だから25なのか』…と、妙に納得。
100号と相似形なわけですから、当然タテヨコ比率も100号とまったく同じ。

さらに寸法表をよく見ると、6号の長辺と短辺は…ともに25号の半分の長さということがわかります。
長辺の1ピエ3プースも、もちろん読み易い目盛。

つまり6号・25号・100号はすべて相似形で、当然まったく同じタテヨコ比率だったってことです。

面白い!

完全に同じ比率のものが複数存在する60号と100号…。これはただ単に作り易かったということだけではなく、このカタチがフランス人の美意識に合致していたからこそ、その比率を守って作られた…とも言えるでしょう。

今度は60号以上のサイズに注目です。

60号と100号のそれぞれの長辺同士・短辺同士をご覧ください
60号の長辺は4ピエ、100号の長辺は5ピエです。

そして…60号の短辺は3ピエ、100号の短辺は4ピエですね。

それらのちょうど中間の長さはわかりますか?

そう、4ピエと5ピエの中間は4ピエ6プース。
そして3ピエと4ピエの中間は3ピエ6プース。

この辺の長さはまさに80号の木枠寸法なのです。

『60と100の中間だから80』ってのも、なんだか納得出来ます。

さらに、現行の寸法表からは削除されたサイズですが…70号にもご注目。

こちらは60号と80号の各辺のちょうど真ん中の長さになっています。
3プース (ピエの4分の1) も、12進法の定規であれば…もちろん読み易い目盛なわけです。
12進法だからこそ、ピエの半分の半分という長さを “ためらいなく” 使えるんですよ。
12進法、意外にも便利じゃないですか?

こうやって、規格サイズのラインナップを増やしていったんでしょうね。
面白いですねぇ。

旧フランスサイズの研究は、次回に続きます。

【第51回終わり】

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