第50回_120号の謎…についてのハナシ

『3ダースサン、後世の “アタマの良いヒト” って、3ダースサンご自身のことですか?』というご質問をいただきましたが、当然それは3ダースの事じゃありませんよ 

だって、3ダース自身も…あの “通説” を一時期は完全に信じちゃってましたから… 
なるほどなぁって思ってましたから… 

そういうグランドデザイン (全体構想) があって、F・P・Mが体系的に整備されてるんだなぁって、マジで信じちゃってましたから… 

ですから…この通説を考えたヒトは、3ダースを騙せるくらいスゴいヒトだったってことですよ。
まぁ、相当昔のヒト (たぶんフランス人) だったと思いますがね。

今回の話題は『120号の謎』

さて、今回の話題は『120号の謎』です。
たぶん、みなさんも一度くらいは不思議に思ったはず…。

F100 1620 × 1303 ㎜
P100 1620 × 1120 ㎜
M100 1620 × 970 ㎜

F120 1940 × 1303 ㎜
P120 1940 × 1120 ㎜
M120 1940 × 970 ㎜

F130 1940 × 1620 ㎜

木枠寸法表の日本サイズ、100号・120号・130号の3行にご注目ください。
なんか…不思議ですよね?

100号と120号以外の行では、Fの短辺に使っている寸法が一つ下の行 (一つ大きいサイズの行) のPの短辺にだいたい使われています。
さらにその同じ寸法がその下の行のMにまた使われる…というように、“寸法表の中で同じ数値が階段状に出現する構造” になっています。

しかし100号と120号の2行は、F・P・Mどこを見ても “上下で同じ数値” なんですよ。
これは不思議ですよねぇ?

そして120号と130号では “長辺が同じ数値” …。
長辺の長さこそが、号数を規定する唯一の基準となるはずなのに、同じ数値の長辺が二つ存在するのはとてもおかしいです。

さらに130号にはP・M・Sの設定がありません。
F型のみです。

それに、130号はフランスサイズの寸法表には存在しません。

不思議な点を挙げてみましたが、すでに3ダースメルマガの中でいくつか答えが出ちゃってましたね。
(実はメルマガの話題に挙げる順番を間違えちゃって、先に答えを出しちゃったんです )

F130がフランスサイズの寸法表に無いのは、日本人が勝手に作っちゃったから…でしたよね?

また、F130の長辺が120号の長辺と同じなのは、昭和の頃の日本人が…120号の長辺と100号の長辺を組み合わせて、新たに変なサイズを生み出しちゃったから…。
つまり必然的に、120号とF130は長辺が同じ…ってことになります。

長辺が120号と同じなので、130号にS型を設定する意味は無いんだし (S120とダブる) 、PやMも…120号のいずれかを利用すれば事が足りるわけですから、130号の行の中に新たにPもMも設定する意味は無い…。

まぁ思うに、フランスで発案されたF120が『F型を名乗っているクセに日本人の感覚から見たら細長過ぎる』ってことが…日本人がF130なる “変なサイズ” を生み出した原因だったんでしょう。

だって、F120の比率は…短辺1に対して長辺は1.489ですもん!
すなわち、ほぼ1対1.5ですもん!
これは紙のA列・B列に使われる “白銀比” よりも細長いんですもん!

だから、『120号の長辺に…もっと幅が広くなるような短辺をあてがって、大きな画面を作りたい』とか『もっと “普通のF型らしい比率” の新しいキャンバスサイズを作りたい』…っていう慾望が日本人の間に湧き出て来たのでしょう。

『ワタシ、フランス人デェ~ス。日本ノミナサン、ゴメンナサ~イ。ワタシタチ、ウッカリシテマシタ~。ジツハF120ガ本当ハP120デ、ジツハP120ガ…本当ハM120ダッタンデ~ス。
ツマリ〜F120ハ作リ忘レテタンデスヨ〜。最初ッカラ作ッテナカッタンデ〜ス。
ナノデ…フランスノ寸法表デハ120号ノ “F” ノ欄ハ空欄ダッタンデスガ〜、寸法表ヲ印刷スル時ニ印刷業者ガ空欄ヲ詰メテ印刷シチャッテ、ソレヲ明治時代ノ日本ニ送ッチャッタミタイナンデェ~ス』ということだと、納得出来るんですよ。

で、その空欄だった120号のFの位置に入るのが日本人考案のF130…。

これなら日本サイズの寸法表も…100号・120号・130号の3行じゃなく、100号と120号の “2行” で収まるんだし、まったく違和感も無い。
それにF・P・Mの短辺が…寸法表の中で階段状に配置され、上の行の短辺と下の行の短辺が同じ位置に同じ数値でダブっていたり…とか、上の行の長辺と下の行の長辺が同じ数値でダブっていたり…っていう異常事態も無くなります。

しかし、実際にはフランス人にとってのF120は…現行のあの “細長いF120” で正解なのです。
ウッカリとか間違いとか勘違いとか印刷ミスなんか…どっこにもありません。
あの細長過ぎるF120こそが、フランス人にとってのF120で間違いないんです!

じゃあなぜフランス人はあんなにも細長いF120を…『F型』として認めているのでしょうか?

そしてなぜ100号と120号の寸法の設定をする時、長辺だけは120号の方を大きくしたのに…短辺の方は順々に大きくするっていう約束事を忘れちゃって100号のF・P・Mの数値のまんまを120号にも当てはめちゃったんでしょうか?

これは3ダースにとっても…長年の謎でした。
本当に謎でした。

でも大事なことを見落としていたことに3ダースは気付きました ‼‼

我々現代の日本人は、F120というと…ついつい横長になるようにキャンバスを置き、風景などを描いてしまいがちです。
実際、あの細長いキャンバスをタテにして使ったという現代の日本人は…ほっとんど居ないと思います。

でも、本来はそうじゃないんですよね。
みなさん、よ~く思い出してみましょう。

そもそも、フランスで市販の張りキャンバス及びキャンバス用の木枠が発売された頃…キャンバスの用途はほぼほぼ肖像画オンリーだったって言いましたでしょ?
キャンバスのF型 (フィギュール = 人物型) の呼び名も、もともとは『ポルトレ (肖像) 』でしたよね?

そう、F120は横にして使うんじゃありません!
タテにして、人物の全身像 (立位肖像画) を描くために使われていたのです!

よく考えてみてください。つっ立っている人の “全身像” ですよ。皆さんも見たことあるでしょう? そういう肖像画!
立位肖像画専用のキャンバスだったんですよ!
そう考えれば “細長過ぎ” なんてことはないでしょう?

むしろF120くらいの細さなら、立位肖像画には “もってこい” です。
理想的なのです!

逆に少し四角っぽい比率のF100だと立位肖像画は描きにくいんじゃないかと思いますよ。
立っている人物を中央に配置したら、左右の背景の面積が大きくなり過ぎますからね。
だから、椅子などに腰掛けた肖像だったり半身の肖像であればF100の比率がちょうど良いかもしれません。むしろF100を使えば、実物大よりもさらに大きく…立派に描けて、肖像画としては価値が高そうです!

つまり…つっ立っている人物の全身像を描くのなら、F120の一択なのです。

F100とF120の短辺が同じ数値なわけですから…寸法表を見ているだけではとても不自然に感じるかもしれませんが、特に等身大に近い “立位肖像画専用” のキャンバスとして…F120はあの寸法と比率で存在している必要があったんです。

つまりF100とF120は、明確に役割が違っていたんです。

とは言え…F100もF120も、どちらも対象物は “人物” ですよね?
ですから、最初っからどちらも『F型』を名乗っているのも間違いではないわけです。

肖像画全盛の頃のフランス人に…後の時代の日本人が考え出した “F130” を見せたとしても、『コンナ正方形ミタイナ変ナ比率ノキャンバスニ、 “ポルトレ” ハ描ケマセンネ~! 日本人ハオバカサンナンデスカァ~?』って、笑われるのがオチですよ。

F120が細長いってことにはちゃんと意味が有ったんです。
意味もなく、ムダに細長かったんじゃないんです。
F120は…横にして使っちゃダメだったんです。
(もちろん現代の人でしたら、日本人でもフランス人でも…F120を横にして使っていただいてけっこうですよ。昔に比べて現代は、肖像画を描く機会は極端に減っているでしょうし…)

そしてもう一つ、フランスサイズの寸法表が120号までで終わっている理由についての解説を…。

これは…画材店の店員なら気付ける可能性がありますが、学校の先生方や決まった大きさの絵ばかり描いている画家達にはなかなか気付けないことかもしれませんね。

つまり、様々な大きさの木枠に…様々な種類のキャンバスを張る作業をした経験のある人なら、フランスサイズの木枠のラインナップが120号までで終わっている…という “理由” に、気付ける可能性があるっていうことです。

はたして、読者のみなさんはお気付きになられましたか?

フランスサイズにおいて、F100とF120…長さ (長辺) は違いますが幅 (短辺) が『1300 ㎜』で同じでしたよね?

これは何かの “限度・限界” があったためにこの幅に決められたんじゃないかな?…って考えられれば、正解への近道です。

そう、それはキャンバス布の “幅” のリミット (限度・限界) です。

現在出回っているロールキャンバスで最も一般的な布幅は145㎝幅でしょう。
でも、25年以上前は145㎝幅よりも圧倒的に140㎝幅が主流でした。
そしてそれより100年以上昔のヨーロッパでも、やはりずっと140㎝幅が主流だったんです。

布の幅は、織機 (しょっき) の規格で決まります。当時のヨーロッパにあったのは、140㎝幅の亜麻の布を織る機械ばかりでした。

あ、このちょくちょく出てくる “当時” って、フランスにおいて市販の張りキャンバス及び市販のキャンバス用木枠が “販売され始めた頃” のことです。

それはメートル法がフランス国内で使われ始めた1799~1800年よりも、さらに50年くらい前の頃。
そんな昔から、街には画材店が存在していて…規格に従って木枠や張りキャンバスが作られていたんですね。

その証拠に1757年刊行の『美術辞典』なる書物に、メートル法よりも昔に使われていた古い単位による4号~120号の寸法表が掲載されています。

当然、布を織る織機は…もっと昔からありました。もちろん手動の織機でしたが…。
そんな昔の頃から、布の幅は140㎝って決まっていたんです。

この140㎝の幅の布を無駄なく使えるのが、フランスサイズにおけるF100とF120の『1300 ㎜』という短辺の木枠の長さだったんです。
(F60の長辺も、140㎝の幅の布を無駄なく使えます)
木枠の規格寸法を考案するにあたって、当然考えなければならなかったのは…布幅のリミットですよ。

実は、当時のヨーロッパには210㎝幅の亜麻布も存在しましたが、それは高級品で値段が高く…油絵用のキャンバスとしてはあまり普及していなかったようです。

高い布でも惜しみ無く使えるような “超売れっ子の画家” なら、いくらでも大きい木枠を画材店に “特注” することも出来たでしょう。

でも、それほど売れていない…つまり “その他大勢の画家” 達は、140㎝幅のリミット内で展開されている…リーズナブルな『規格品の木枠』を頼っていたんだろうな…というような事も、木枠の寸法表を分析していくとわかって来るんですよ。
面白いですよねぇ?

我々現代の画材店も、布幅のリミットを超えたサイズの木枠に張る場合は…さらに幅の広いロールキャンバスを用意しなければなりません。

210㎝幅のロールキャンバスは日本サイズのF200 (短辺が1940㎜) を張るのにちょうど良いです。
あと…175㎝幅のロールキャンバスはF130を張るのにちょうど良いんですよね。

こういう知識は、幅の広さの違う複数のロールキャンバスを使い分け、様々なサイズの木枠に張った経験がある者だけが得られるものなのです。
F100とF120の木枠の短辺が同じ寸法だ…ということが、どちらも140㎝幅の布を充分活用出来るように設計されたから…と気付いている画材店店員も日本中探せば何人かは居るかも知れませんね。
居ないかも知れませんが…。

ちなみ現在…ロールキャンバスの幅は3mくらいの物も存在しますので…日本サイズのF500を張ることも充分可能ですが、こういう幅広の布が存在しなかった時代のフランスでは…140㎝幅の布や210㎝幅の布を継ぐことで大きな画面に対応していたようです

例えば、ルーブル美術館で最大の絵画と呼ばれる『カナの婚礼』 (ヴェロネーゼ・6.77 × 9.94m) や、2番目の『ナポレオンの戴冠式』 (ダヴィッド・6.21 × 9.79m) などは、当然布を継いでキャンバスを作っていると考えられます。

この “布を継ぐ” という行為はけっこう普通に行われていたことだそうです。

まあ、幅が足りなければ継げばいいわけで…実際140㎝を超える幅の画面は、値段の高い210㎝幅の布を使うよりも…140㎝幅の布を継いで対応する方が主流だったもよう。

この、“継ぎさえすれば大きな布が作れる” …っていうのは、帆船の帆 (セイル) のことを想像していただければみなさんにもご理解いただけるかしら?

みなさん、帆船のあの巨大なセイルが…継ぎもしない一枚物の布なわけ、ありませんよね?
けっこうたくさんの布を並べて継ぎ合わせて…あのセイルは出来ているのです。

これ、何か解り易い画像があるかと色々検索してみたんですが…どれも大海を疾走する帆船の画像ばかりで、セイルが継いだ布で出来ていることが理解出来るような写真が長いこと見つけられませんでした。

でもつい最近、良いキーワードが見つかりましたよ。

『総帆展帆 (そうはんてんぱん =フルセイルエキシビション) 』です。『セイルドリル』も、同じような意味です。
これらのコトバで画像検索していただければ、接岸した帆船が帆を広げている画像が見られると思います。


※画像参照

これらの画像のセイルを見て頂ければ、何枚もの布を並べて継ぎ合わせて大きなセイルを作っている…ということがご理解いただけると思います。

現在の帆船のセイルは大航海時代の船とは違って亜麻の布製ではないでしょうし…織機の幅も大昔の規格とは異なるでしょうが、やはり限られた幅の布を継ぎ合わせて大きなセイルを作っている…ということは、油絵専攻の先生でなくとも美術に関わる仕事をなさっているみなさんなら一度でも見て知っておく必要があるかな…と思い、ご紹介させていただきました。

木枠とキャンバス布は、片方だけでは仕事が出来ません。両方が有効に活用されて、初めて成り立ちます。

フランスサイズの寸法表に120号までしか書かれていなかったこと…。
F100の “幅” が一つのリミットになっていて、どうしてもF120も同じ幅に抑えられてしまうこと…。
ただし、立位肖像画専用のキャンバスは細長く作られていて当たり前であること…。
売れている画家なら、規格の制限を飛び越えて…もっと大きな画面にいくらでもチャレンジ出来たこと…。
当時は布を継いで大きな画面を作ることは…けっこう普通に行われていたことなど、ご理解いただけたでしょうか?

500号まで記載された『日本サイズの寸法表』の隣に、F100と同じ幅しかないF120を最大寸法として…それ以上の寸法の記載がなされていない『フランスサイズの木枠寸法表』…。
これも読者のみなさんは違和感を持って見ていらっしゃったかもしれませんが、超売れっ子の画家の大サイズの木枠の注文にはそのつど特注で木枠を製作し、その他大勢の画家達には…リミット内のリーズナブルな “規格品” を使ってもらう。
だから寸法表に書く規格寸法は120号までで充分…と。

さすがフランス!

とても合理的な考え方じゃあないですか!

いかがでしたか?

これだけのことを総合的に述べた文章は、そうそう存在しないのでは?
3ダース、なかなかやるでしょ?

ひたすら…寸法表を穴が開くほど見つめていると、こういうことまで自然とイメージ出来てくるもんなんですよ。

ですので…まだまだ木枠寸法のハナシは続きます。

※参考寸法表

第50回終わり】

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