第1話_紙の規格寸法 (サイズ) のハナシ

紙のサイズ規格を正しく理解しよう

〜A列・B列の本当の話〜

A4?それともA列4番?

よくみなさん、**A4(えーよん)とかB4(びーよん)**とかって紙の大きさを呼んでますが、それらをJIS規格に従って正確に言うのなら『A列4番』とか『B列4番』と呼ばねばなりません。

でもご安心を

普段からJISの正式名で紙のサイズを呼んでる人は全人口の**0.005%**居るか居ないか…です。ですので、普通に『A4』とか『B4』って呼んじゃって大丈夫です。


A列とB列、何が違うの?

ところで、A列とB列の違いってご存じでしょうか?

A列は国際規格

A列は国際規格(ISO=国際標準化機構による規格)で決められているもので、世界中で使われています。

B列は日本独自の規格

一方のB列は日本独自の規格(JIS=日本工業規格…現在は改称されて日本産業規格)なのです。

補足: 正確に言うと日本のB列とは微妙に違う『国際規格のB列』っていうのも存在するんですが、採用してる国も少ないし…日本国内では”国際B列”はまったく通用しませんから、国際B列は覚える必要はありません。


A列規格の誕生秘話

ドイツ発祥の賢い規格

A列の発祥は戦前のドイツの工業規格。それが戦後に世界標準となり、ISO規格に採用されました。(もちろん日本のJIS規格にも、そのまま取り入れられています)

不思議な比率「1:√2」

みなさんご存じの通り、紙のタテヨコ比率は『1対ルート2』。すなわち『1:1.4142…』です。

この紙を…長辺が半分になるように切ると、切る前の紙とまったく同じ比率の紙が…半分の大きさで2枚作れます。

この不思議な比率(『黄金比』に対して『白銀比』と呼ばれたりします)を紙の規格に使うことを考えたのが、ドイツの物理化学者オストワルトさん。

オストワルトさんって誰?

美術の世界にも深く関わっていたオストワルトさんは、”オストワルト式色立体”も考案してます。(日本では”オストワルト式色立体”より、”修正マンセル色立体”や”日本色研PCCS色立体”の方がはるかに利用頻度が高いようですが…)

ちなみに、オストワルトさんはノーベル化学賞も受賞しています!


A列の面積の秘密

A列0番の紙の面積が『1平方メートル』となるように紙のタテヨコ比を割り振ったのが、現在の国際規格にも使われている『A列規格』です。

番手が増えると面積は半分

  • A1はA0の半分の大きさですから、0.5平方メートルの面積の紙
  • A2はA1の半分ですから、0.25平方メートルの面積の紙

番手(数字)がひとつ増えると面積が半分になるんです。
逆に番手がひとつ減ると面積は倍…です。


A列とB列の関係

同じ番手ならBの方が大きい

同じ番手のAとBを比べると、Bの方が大きいですよね? コピー用紙のA4とB4なら、B4の方が大きい。

B列はA列の1.5倍!

計算すると、もっとよくわかります。

B4はA4の1.5倍の面積なのです!

そう、つまり…B列0番を1.5平方メートルの面積の紙になるようにタテヨコの比率を割り振って作ったのが、JISのB列規格です。

  • 同じ番手ならB列はA列の1.5倍の面積
  • その逆を見れば、同じ番手ならA列はB列の0.666…倍の面積
  • 番手のひとつ違うAとBとを比べる場合…、A3とB4なら当然A3の方が大きく、面積比は1.333…倍

押さえておきたい4つのポイント!

細かい数字なんかは覚える必要はありません。押さえていただくのは次の4つのポイント!

✅ ポイント1

AだろうがBだろうが、同じ”列”の中なら、番手(数字)がひとつ増えれば面積は半分になる

✅ ポイント2

同じ番手(数字)で比べればA列よりB列の方が面積比で1.5倍デカイ

✅ ポイント3

A列はドイツ発祥の国際規格で、A列0番の面積が1平方メートルになるように割り振られた

✅ ポイント4

B列は日本独自のローカルな規格で、B列0番の面積が1.5平方メートルになるように割り振られた

この4つのポイントさえご納得いただけたなら、”紙の規格寸法”に関しては完璧です!


ご注文時の注意点

なお、『A4判』とか『A4版』という紛らわしい漢字表記はご注文の際に使わないでいただきたいのです。

まあ、規格の正式名称である『A列4番』と書いていただく必要はありませんが、この『判』や『版』には…実は全く別な意味が含まれていまして、誤発注の原因になっちゃうのです。

紙の断裁のご注文なら、『A4規格』か、単に『A4』と書いていただくのがベストです。


【重要な訂正】オストワルトさんについて

第1回でご紹介したドイツの学者、オストワルトさん。
物理学者としてご紹介いたしましたが、実際には『化学者』でした。大変失礼いたしました。

物理化学の確立者

オストワルトさんはノーベル化学賞も受賞している化学が専門の人ですが、物理学的手法を用いて化学の研究をする”物理化学”という学問分野を確立した人でもあるそうで、当然物理分野にも詳しかったと思われます。


ネット情報にご注意を!

「オズワルド」という誤表記

ネット上で”紙の規格”に関する記事を検索すると、ほとんどの記事でこの人の名前の表記が『オズワルド』になってるんですよ。

これ、オストワルト(Ostwald)の英語読みなのかな?…と思ったらオズワルドのスペルはOswaldで、つまり…別な名前になっちゃってるの。

オズワルドっていったらケネディ大統領を暗殺した犯人じゃん!(最近ではオズワルドといえば伊藤・畠中のお笑いコンビでしょうけど…)

なぜこんな間違いが?

記事を書いたヒトって、オストワルトさんの事…なにひとつわかってないんでしょうね。普通に調べているのなら『オストワルト』さんを『オストヴァルト』か『オストワルド』に読み替えるのは有り得るけど、『オズワルド』に読み替えるのは無理って気づくはず。

まぁ、誰かの書き間違いでオズワルドが発生したんでしょうけど…この名前がコピペで膨大に拡散されちゃってるんですよ、マジで膨大に。

オストワルト色立体の時代

“あの有名な”オストワルトさんのことを全然違うオズワルドって書かれちゃうのは、すごい違和感なんです。なぜなら、私はオストワルト式色立体を知ってる世代ですからね。っていうか、職業として販売してましたもん、色立体…。ソロバンの玉みたいな形の…。

今でこそオストワルト色彩理論は日本では完全に下火ですが、以前はオストワルトかマンセルかってくらい、オストワルトさんの存在は大きかったんです。

ちなみに、色立体のメーカーさんに聞いたら…もう二十年くらい前にオストワルト式は廃盤になったそうで、今…特注で新規に作ると100万円越えるらしいです。


もう一つの重大な誤り:四六判の由来

クラウン判のサイズが間違っている!

四六判のウンチクばなしで紹介した『30×40インチのクアッドクラウン判(クラウン判の4倍判)』っていうイギリスの紙の規格寸法も、ネット上のほとんどすべての記事では間違ったことが書かれていました。

真実は英文サイトにあった

最初…数十件の記事を見比べていたら、『30×40インチの”クラウン判という大きな紙”があった』ってのと『20×30インチのクラウン判を”倍にしたもの”が30×40インチで…』と、四六判のもとになるはずのクラウン判のサイズにブレがあったんですよ。

しかも倍も違うって、どういうこと?

日本語のサイトでは『クラウン判は30×40インチ』ってのが圧倒的に多かったんですが、多いからといって信用はできません。

で、英文のサイトを見てみて愕然ですよ。

『ISO規格を採用する以前のイギリスに存在したクラウン判の寸法は、15×20インチ』

これ、全然ちっちゃいじゃん! これじゃあB3程度の大きさですから!

正しい情報

他の英文のサイトもけっこうな数見ましたが、クラウン判が20×30インチだとか30×40インチだなんてどこにも書いてありません!

  • 15×20インチ = クラウン判
  • 20×30インチ = ダブルクラウン判
  • 30×40インチ = クアッドクラウン判
  • 40×60インチ = ダブルクアッドクラウン判

つまり、多くの記事が書いている『イギリスから輸入した30×40インチのクラウン判がもとになって四六判が生まれた』ってのは、日本で作られたデマだったんですよ。日本語版のWikipediaにも間違って書かれています。

正しくは…

『イギリスから輸入していたクアッドクラウン判より…少し大きな紙を改めて輸入するようになり、それがもとになって四六判が生まれた』ってのが本当。


ネット情報の「裏取り」の重要性

なぜ確認しない?

日本のバカな子たちは一人も”裏”を取らなかったのかなあ? もう、ネットの世界はバカばっかり! なぜ裏取りしない? 調べりゃわかるでしょ!

ネット上に存在するほぼすべての記事の方が間違ってた…ってことですわ。(実際は3件ほどクアッドクラウン判と書いた正しい記事がありました。その記事を書いた人達は、もちろんバカな子ではありません)

アナログ人間でもできる

私はパソコンも持ってないし携帯はいまだに二つ折りです。でも、こんなアナログ人間でも簡単な”裏取り”くらいはできる。

なぜ、パソコンやスマホを持ってる世の中の大勢のヒトたちはネットに書き込む前に”裏取り”しないのかなぁ?

デマの出どころ

他の記事はすべて出どころが同じ”ガセ記事”だったってことですよ。ま、その大もとの記事なのであろう昭和53年の”論文”までたどれましたけど…論文内に何個何個も誤字脱字のある著者でしたわ。それに致命的な数字の間違いも複数…

論文に添付したイギリスからの輸入紙のデータも、著者の調査自体が甘く…手元の資料の誤りを見抜けないまま論文に添付しちゃったんでしょう。ま、この論文著者も、裏取りができてなかったんですね。結果、ウソを撒き散らしちゃったわけですけど…。


まとめ:ネット情報は鵜呑み厳禁!

注意すべきポイント

  • 「オズワルド表記」の記事は要注意(正しくはオストワルト)
  • 印刷業界の人のくせに『B全=B1』なんて書いてるヤツもいる(正しくはB全=B本判)
  • 裏取りをしていない記事が大量に拡散されている

最後に

とにかく、ネット上のバカな子の記事には気をつけましょうね。鵜呑み厳禁よ!

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