第48回_木枠寸法の “日本サイズ” と “尺貫法” のハナシ

今回は、尺貫法やメートル法…そして前回話題に挙げた『F型なのにも関わらず “正方形に近いグループ” がなぜ存在するのか』を考察してみたいと思います。

さて、前々回に添付した資料をご覧になって『東京のB社の人はずいぶん半端で細かい数字を指定していたんですね』っていうご感想を若い読者の先生からいただきましたが…、

ん?
あ、いや…。え~と…。

それ、違いますよ… 

前々回に添付した… “半端で細かい ㎜ 表記の数値” で書かれた寸法表は、1959年以降に効力が発生したものです。

明治の中頃にB社が作成した “明治時代の寸法表” は、今回添付した資料のような…『尺貫法表記』による寸法表だったのです。

みなさん、わかりますか?
明治時代ですから長さや重さの単位表記は尺貫法ですよ。
ここまでは付いて来れてますか?

現代のメートル法 (㎜) に換算すると…
1尺 = 10寸 = 100分 = 303.03㎜
です。
換算すれば、そりゃあ細かい数字になりますよ。

日本では尺貫法による計量をメインに据えた…明治時代から続く『度量衡法』という計量に関する法律を1951 (昭和26) 年に廃止し、同年に新しくメートル法の使用しか認めない『計量法』を制定。
移行期間を経て1959 (昭和34) 年から完全に “計量法” を実施。それにより日本は、メートル法を主体とした社会に生まれ変わりました。
これを『日本のメートル法化』と呼びます。

ですので、今回1枚目に画像添付した尺貫法表記の資料は…1951年までは公式に使われていたのですが、1959年には違法ということで使用禁止になってしまったのです。(それ以降、この尺貫法表記を迂闊に使うと逮捕・拘禁されました)

前々回に添付した “現行” の寸法表 (今回は2枚目に添付) は…おそらく1951年〜58年の間に尺貫法表記から ㎜ 表記へと換算・調整され、59年から公式に使われるようになったものです。

今回は、日本がメートル法化する以前のおハナシです。

1893~4 (明治26~7) 年頃に東京神田のB社が、メートル法による表記だったフランスの木枠寸法表を尺貫法に換算し…国産木枠の寸法を確定したとされています。
(その当時のフランスの “木枠寸法表” には…0・1・2・5号の『F・P・M』と、3・4号の『P・M』の記載が有りませんでした)

で…前にも申しましたが、その時にフランスサイズを尊重して “寸法の忠実なコピー” をしていたのなら、F4は…
『1尺0寸8分9厘 × 7寸9分2厘』
になっていたはずです。
そしてどのサイズでもそのような “忠実なコピー” がなされていたのなら…日本が尺貫法からメートル法に移行した時、木枠寸法表はフランスサイズとまったく同じ数値になったはずなんですよね。

しかしB社は60年後にまさか日本がメートル法化するとも思っていなかったでしょうし、遠く海を隔てたフランスと全く同じ寸法にする合理性も…当時は無かったわけですから、F4を
“1尺0寸8分9厘 × 7寸9分2厘”
にするのはではなく、木工職人さんが作業しやすいように
『1尺1寸 × 8寸』に決めたのです。

つまり、日本はフランスの寸法を忠実に真似る…のではなく、自分達にとって都合良くなるよう “独自の翻訳” をした…というわけです。

尺・寸の単位からはみ出る端数の処理は…寸の10分の1の
『分 (ぶ) 』 ( = 約3.03㎜) の単位を使い、その数値は『0』か『5』で…つまり約15㎜刻みで割り振りました。

15㎜刻みで最も近い数値を充てる…ということは、元のフランスサイズとの誤差は7㎜以内に収まるはずですよね。
ええ、収まるはずなんですよ。

でもね、フランスサイズと日本サイズの ㎜ 表記の数値を見比べてみると、誤差は7㎜以内に収まってないんですわ 
全然収まってないの!

『5分 (約15㎜) 』を用いる “調整” の手間を惜しまなければ…すべての号数においてフランスサイズとの差を7㎜以内に収められたはずなのに、その丁寧な調整をしていないサイズがいくつもあった…ってことです。

では、詳しく見てみましょう。
1枚目と2枚目の画像を交互にご覧ください。

※ 10号Fについては後で触れます。

まず、30号のFにご注目ください。
フランスサイズでは
920 × 730㎜。
日本サイズでは
910 × 727㎜。
つまり、長辺が-10㎜、短辺が-3㎜小さくなっています。
長辺の誤差を最小にするのなら…長辺を3尺0寸5分 (すなわち924㎜) にしておけば…+4㎜の誤差で済んだはず。

しかし、B社の判断は10㎜もズレることになる3尺0寸0分を選んだ…。

次は50号のFを見てみましょう。
フランスサイズでは
1160 × 890㎜。
日本サイズでは
1167 × 910㎜。
長辺が+7㎜、しかし短辺は+20㎜も大きくなっています。
長辺の誤差は7㎜ですから、これより小さくすることは出来ません。でも短辺の誤差を最少にするのなら、短辺を2尺9寸5分 (すなわち894㎜) にしておけば…+4㎜の誤差で済んだはず。

しかし、B社の判断は20㎜もズレることになる3尺0寸0分を選んだ…。

次は80号のFを見てみましょう。
フランスサイズでは
1460 × 1140㎜。
日本サイズでは
1455 × 1120㎜。
長辺が-5㎜、しかし短辺は-20㎜も小さくなっています。
短辺の誤差を最少にするのなら、短辺を3尺7寸5分 (すなわち1136㎜) にしておけば…-4㎜の誤差で済んだはず。

しかし、B社の判断は20㎜もズレることになる3尺7寸0分を選んだ…。

120号のFも見てみましょう。
フランスサイズでは
1950 × 1300㎜。
日本サイズでは
1940 × 1303㎜。
長辺が-10㎜小さく、短辺が+3㎜大きくなっています。
長辺の誤差を最小にするのなら…長辺を6尺4寸5分 (すなわち1955㎜) にしておけば…+5㎜の誤差で済んだはず。

しかし、B社の判断は10㎜もズレることになる6尺4寸0分を選んだ…。

つまり当時の日本の画材業界は、フランスの画材業界がせっかく考えてくれた寸法や比率の事を…たいして尊重していなかったってことなんです。

長さが10㎜とか…ヘタすれば20㎜もズレていようが、どうでも良かったんです。
タテヨコの比率が狂おうが、どうでも良かったんです。
(P10短辺とM12短辺は、フランスサイズよりも…なんと30㎜もズレてます )

改めてF30・F50・F80・F120の日本の寸法を確認してみましょう。
1枚目の添付画像を御覧ください。

F30の長辺は、3尺0寸5分に決めればフランスサイズに “より近付ける” のに、3尺0寸0分を選んだ。

F50の短辺も、2尺9寸5分に決めればフランスサイズに “より近付ける” のに、3尺0寸0分を選んだ。

F80の短辺も、3尺7寸5分に決めればフランスサイズに “より近付ける” のに、3尺7寸0分を選んだ。

F120の長辺も、6尺4寸5分に決めればフランスサイズに “より近付ける” のに、6尺4寸0分を選んだ。

もうお分かりですね。
木工職人さんがチマチマと『5分』の目盛を読まなくて良いように…『0分』に揃えちゃったんですよ。

特にF30の長辺とF50の短辺は、寸の位もゼロにして… “尺” だけで寸法が完結するようにしちゃってますね。

お手本であるフランスサイズの長さに “合わせる” とか…理想のタテヨコ比率を “守る” ということよりも、『製造効率』だけを優先していたということが…手に取るようにわかります。

そりゃあそうですよ。なにも海の向こうの異国の寸法に囚われて、“3尺0寸5分” や “2尺9寸5分” …ってチマチマ目盛りを数えるより、どちらも5分ズラして『3尺』に設定しちゃう方が…作る側の立場で言わせてもらえばはるかに楽ですよ!

“正確な寸法” だの “理想の比率” だのは、二の次…三の次ですよ!

こうして…ゆる〜く、木枠の日本サイズの寸法は決まっていったのでしょうね。

『10号F』の日本サイズとフランスサイズについて

さて、後回しにしてあった『10号F』の日本サイズとフランスサイズを見比べてみましょう。
1枚目・2枚目の画像をご覧ください。

フランスサイズでは
550 × 460㎜。
日本サイズでは
530 × 455㎜。
つまり、長辺が-20㎜…短辺は-5㎜小さくなっています。
長辺の誤差を最小にするのなら…長辺を1尺8寸0分 (すなわち545㎜) にしておけば…―5㎜の誤差で済んだはず。

しかし、B社の判断は20㎜もズレることになる1尺7寸5分を選んだ…。

これ、なんか変ですよねぇ?

わざわざ『5分』の端数を付けて…20㎜もズラしちゃってますよ

おかしいですよねぇ?

これ、おそらくフランスサイズの寸法表の『550』を『530』って読み間違えちゃったんじゃないかしら?
B社の人が読み間違えたのか、それともフランスサイズの寸法表の方に印刷ミスがあったのか?
あるいは単なる計算ミスか?

輸入した木枠を実測していれば、こんなにもズレるはずは無いでしょう。おそらく表の数値を読み間違えたか印刷ミスだったんだろうと…3ダースは考えております。

わざわざ “5分” の端数を付けているんですから、意図的に 530㎜ ピッタリの長さを…尺貫法で忠実に再現しようとしているように見えますもんね。
『ジャスト 530㎜ 』を狙っていた事が手に取るようにわかります。

しかし現実を見ると…敢えて “5分の端数” を付けてまでして再現した長辺が、実際のフランスサイズより20㎜も短くなってしまった。
そのため、日本サイズのF10は極端に…極端に正方形に近い比率になってしまったんですよ。

前回、短辺1に対して長辺が1.2以下しかない『正方形に近いグループ』のメンバーを数えましたら…
F8 (1対1.197)
F10 (1対1.165)
F20 (1対1.200)
F130 (1対1.198)
の4つでした。

でも、よく見て !!!!

F10以外はほぼほぼ『1対1.2』ですよね? ほぼほぼ!

F10だけが、全っ然違う比率!

このF10だけが極端に正方形に近い “異形 (いぎょう) ” だったのは、明治時代の読み間違えか印刷ミスか…はたまた計算ミスか、が影響していたっていうことが…このたび3ダースの地道な調査の結果判明いたしました。
 (パチパチパチパチ)  

ちなみにフランスサイズのタテヨコ比率も…全サイズ計算してみましたが、F型において10号以外はすべて…短辺1に対して長辺1.2以上の “長方形” でしたよ。
つまり、フランスサイズの中で唯一 “1対1.2” をわずかに下回っていたF10に…読み間違いなのか印刷ミスなのか計算ミスなのかによって “長辺を20㎜も短くする失態” で追い討ちをかけ、『1対1.165』という極端な異形を…日本の画材業界は生み出してしまったんです。

誰かがちゃんと気付いてくれていれば…。
誰かがもう少し丁寧な計算をしてくれていれば…。
F10という、あんな極端な異形は生まれずに済んだのですが…。

とても残念です。
(3ダースは正方形に近過ぎるF10のカタチが大っ嫌いなのです)

F10以外の “正方形グループ” のメンバーも、フランスサイズから日本サイズに “翻訳” された際に “1対1.2” をわずかに割り込んでしまいました。
F8は、長辺がほんの少し短く翻訳されたため…。
F20は長辺がほんの少し短く…逆に短辺は長く翻訳されたため “1対1.2” を割り込んでしまったようです。

ちなみに…日本独自の “F130” というサイズは、フランスサイズには存在しません。
またこのF130はおそらく1975 (昭和50) 年より後に、F120の長辺とF100の長辺同士を組み合わせたカタチで市販された物…。ですから尺貫法表記の寸法表にF130は記載しておりません。

一方…150号以上の “大サイズ” は、戦前の1930 (昭和5) 年に…やはり日本で独自に作られた物です。
日本独自のサイズですので、フランスサイズの寸法表には150号以上の寸法は記載されておりません。

知ってますか?…書道で使う『半紙』って、F4とまったく同じ寸法

余談ですが…書道で使う『半紙』って、F4とまったく同じ寸法なんですよ。これは画材業界人でも知らない人が多いんですよね。

みんな『へ~意外だねぇ。偶然かなぁ?』って言います。
中には『じゃあ書道の連中、ウチらのパクリ?』なんて言う人まで…。

オイオイ、少し考えりゃわかるっしょ  ┐( ̄ヘ ̄)┌
意外でもなんでもなく、昔から存在した1尺1寸 × 8寸の半紙と…後から入ってきたフランスのF4サイズがたまたま似ている大きさで、国産化する時に尺貫法で作成しやすいように調整したわけだから…まったく同じ寸法になっちゃったのは当たり前

今でこそメートル法で表記しているから『半紙もF4も ㎜ 単位までピッタリ同じなんてスッゲェ偶然』…なぁんて思っちゃいますが、不思議なことではありませんよね。

むしろ、パクったのはウチらですよ。

第48回終わり】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

こちらは現在担当しているエリアの方でその方が限定した方にのみ送っているメルマガを許可を頂き配信しております。(管理人より)