第44話_油絵のパレットのハナシ

『油絵の画家が手に持っているパレット』=木製のパレット

『油絵の画家が手に持っているパレット』というと、大抵の人は木製のパレットをイメージするでしょう。

また…どちらかというと、角型のパレットよりも丸型 (オーバル=楕円) パレットの方を思い浮かべるんじゃないかな…と思います。

この丸型パレットは、何色もの絵具を “扇状” に並べるのにムダ無く置ける…という事と、パレットを持ったまま大きなキャンバスの画面に近付いて…細かい部分の描き込みに熱中している時、うっかりパレットのカドでキャンバスを突き破ったりしないようにカドを丸く取ってある…との理由で “こんな形” になった、とされています。


※画像参照

また、さらに大型の…まるで雲形定規のような形をしている丸型パレットもあります。
これは特に『フランゼン型』と呼ばれていて、左手の親指から肘までの “腕全体” でパレットを支えられるような形になっています。
また、左腕を体にぴったりと寄せた時にパレットの手前側のフチがうまく体に沿うように…丸く削り取られた形になっているのです。

このように…丸型 (オーバル) パレットやフランゼン型パレットは、手に持つことを前提に作られているんですね。

パレットのサイズが大きくなると全体の重さも増す上に…持った時の重さのバランスも悪くなりますから、特に大きいフランゼン型 (10号のキャンバスと同じ長さ) は…手前側の板の厚みをわざと厚くし、さらに親指用の穴の手前の板の中に鉛板を仕込んだりして重さの釣り合いを取り…長時間左腕だけで支えていても疲れにくいように工夫されています。

一方、室内で机や角イスの上にパレットを置きっぱなしにして描くのであれば、丸型なんかより面積の広い角型パレットの方が断然便利ですね。
角型パレットは置いて使うのには最適です。

このように、油絵のパレットには木製のパレットを使うのが基本だったのですが…現在のパレット事情はペーパーパレット全盛なのでしょうかねぇ?

3ダースが高校生の頃のハナシ

3ダースが高校生の頃は、美術選択の生徒はほぼ全員が木製スケッチ箱入りの油絵セットを購入する…っていう時代でした。
スケッチ箱には “二つ折り” の木製パレットが付属していましたから、美術部員もほぼ全員がその二つ折りパレットを使っていましたね。

ペーパーパレットはまだほとんど普及しておらず、使ってる人はごくごくまれでした。

3ダースは高1の部活の夏合宿において…炎天下で油絵制作をしたため、木製の二つ折りパレットが反 (そ) ってしまいました。
その後、二つ折りの合わせ目がズレ…そのスキ間からゆるく溶いた絵具が流れ落ちたりするのに嫌気が差し、高2の頃に『一枚物 (つまり二つ折りではない) の角型パレット』を最寄りの画材店で購入しました。
F6サイズで朱利桜 (しゅりざくら) 製のパレットです。

スケッチ箱入りの二つ折りパレットはF5相当の大きさでしたから、F6サイズは面積も広く…当然合わせ目のスキ間も無いわけですから大変使いやすかったのを覚えております。

現代の美術部員のハナシ

現代の美術部員さん達は、木製パレットを使ってらっしゃるのかしら?
木製スケッチ箱すらお持ちでない生徒さんが多いでしょうから…みなさんペーパーパレットをお使いなんでしょうかね?
ましてや木製の『一枚物パレット』を欲しがる生徒さんなんていらっしゃらないのかしら?

もしいらっしゃったなら、当店にご相談ください 😄

画材業界の集まりの場で知ったこと

3ダースは社会人になったばかりの頃、画材業界の集まりの場で…パレットメーカーの社員さんと話をする機会がありました。

パレットメーカーの社員さんは『丸型パレットは四角く切り出してから周りを削って丸くしているので、手間もかかるし木材の無駄も多い』とか『今はマシになったが、昔のパレットはよく反 (そ) った。大きいものほどよく反った』とおっしゃってました。

お話をうかがうまで、丸型パレットの製造工程なんて考えたことも無かったのですが、言われてみたら確かに作るのには手間がかかりそうですね。
それに、面積なんか…縦横が同じ長方形と比べたら丸型 (楕円) は約4分の3しか無いんですよ。

ちなみにその頃、手間がかかるわりに丸型の値段はそれほど高くはなかったんです 😅
角型の3割増しくらいの値段にしても良さそうだと現在の粕谷なら思うんですが、当時は角と丸の値段がたいして変わらないか…せいぜい1割程度の違いでしたね。
もっとも、角型に比べて面積が小さいわけですから丸型を欲しがる人は少数でした。
(3ダースも高2の時、角と丸とで迷ったんですが、『面積が大きい方が絶対いいよ』という店主さんのアドバイスに従い、角型を買う事が出来て本当に良かったです)

メーカーの社員さんは『昔のパレットはよく反った』ということも、詳しく説明してくださいました。

二つ折りではないことを強調するために『一枚物パレット』と呼んでいますが、実は現在の木製パレットは… “一枚の板” からは作らないそうです。

木の板は、反るのが当然。

ですので…全体の反りを防ぐため、中くらいのサイズなら2ブロック、大きければ2~3ブロックで、別々な板をつないで “一枚の板に見えるように” 作っているとのこと。

つなぐ際に職人さんが木目を見極め…反りを相殺するようにじょうずに接 (は) ぎ合わせ、削り出してパレットを作っている…と、メーカーの人は教えてくれました。

確かに、高校時代に使っていた一枚物のパレットを見てみたら、真ん中あたりで接 (は) ぎ合わせてあるのがわかりました。(良く見なきゃわかりません)

接 (は) ぎ合わせの技術 (主に接着剤の開発と製作コストの問題) が現在ほど確立していなかった頃は、正真正銘の『単板 (一枚の板) 』でパレットは作られていました。
その頃は、反りも出やすかったんでしょうね。

まあ、板ってモノは『反るもの』なんです。
反って当たり前なんです。
昔の人はみんな『そういうモンだ』って納得して、我慢できる範囲なら我慢しながら使っていたのでしょう。

しかしまあ、現在は一枚物のパレットなんか、店頭ではまったく売れませんね。問い合わせすらまったく無し。
木製パレットの時代は終わっちゃったんでしょうか?

ここで、木製パレットの部位の名称のご説明

パレットの “穴” は、『親指用の穴』『親指穴』『指穴』などと呼びます。

左手の親指を…穴から上に出し、パレットを保持します。

ちなみに、左利きの人用の油絵用パレットってのは、3ダースは見たことありません。
高校時代に左利きの同級生が二つ折りパレットの裏面を使えるように、“蝶ツガイ” を裏面に取り付け直してる人がいました。
でも指穴の斜めに削ってあるところまでは調整できてなかったようです。

左利きの人にとってはパレットを手に持って描かざるを得ない屋外スケッチなどでは、圧倒的に不利だったんだろうなぁ…と思いましたね。
ペーパーパレットにしても、左利きの人用の商品は出ていません。
左利きの人達は、どう対処されてたのかしらねぇ…。

あ、ハナシがズレちゃいましたね。

指穴の右側の、パレットが削られてる場所の正式名称は知りませんが、3ダースはその場所を『切り欠き』と呼んでいます。

角型にも丸型にもフランゼン型にも、カタチは違いますが切り欠きが存在します。

木製パレットに馴染みがない読者さまには、この切り欠きの持つ意味をご存じない先生もいらっしゃることでしょう。

コレ、『左手で握った筆を出す所』ですよ 😄

※画像参照

パレットを手に持って描く場合、特に屋外で立ったまま絵を描くようなシチュエーションだと、筆を置く場所も…なかなか無いじゃぁないですか。

ですので、パレットを持っている “左手” で、一緒に筆も握っちゃうんですよ。
左手は親指でパレットをホールドしていますから、それ以外の指はフリーでしょ?
そこで、その “あいている指” で、筆をひとまとめにして握るんです。

以前、こんなオバチャンを見かけました。
人差し指と中指の間に1本、中指と薬指の間に1本、薬指と小指の間に1本…筆を挟んでいる人。
本人は大マジメなんですよ。
でも、指が痛そうで痛そうで…。
『なんでそんな罰ゲームみたいな筆の持ち方してるの?』って聞いたら『だって隣り合う筆の絵具が付いちゃうじゃない!』って… 😅

ええ、ごもっともです。
この人はとても几帳面なんでしょうね。
でも、間違ってますよ…持ち方。

で、その人から筆を奪い取って握ってみせます、普通に。
そうです、みなさんはもうお気付きですよね?

油絵用の筆は、軸の…口金に近い側に “一番太い部分” があります。
ですので、穂先の反対側の末端を普通に握れば、穂先は放射状に広がり、隣り合う筆がくっつくことはありません。

コツとしましては、小指と薬指の付け根あたりに筆の末端を集めて、ひとまとめにして握る…そうすると自然と放射状に先端は広がります。

※画像参照

で、さらにパレットの切り欠きのヘリに筆の軸を当てるようにして持つと、疲れません。
(画像参照。珍しい丸型の二つ折りパレットあり)

『切り欠き』にはそういう役目

『切り欠き』にはそういう役目が有るのです。

絵を描きながら筆を交換する時は、いままで使っていた筆を左手の筆の束の中に挿し…右手でボロキレを持ってその穂先をぬぐい、束の中から別な筆を選んで引き抜く…。
その繰り返し…。

パレットも筆も、“置く場所” さえあれば…別に『切り欠き』や『指穴』なんて必要ないんですけどね。

まあ、『パレットの形にもいろいろ意味があるんだなぁ』って、ご理解いただけたならありがたいです。

【第44回終わり】

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