旧フランスサイズのキャンバスのタテヨコ比率を一覧
本題に入る前に、今回の添付画像のご説明から…。

※添付画像①
前々回までの『旧フランスサイズの研究』の成果を図にまとめてみました。
添付画像1枚目をご覧ください。
旧フランスサイズのキャンバスのタテヨコ比率を一覧出来るよう、全16サイズを縦長になるように…左下の角を重ねた状態で表示しました。
そして左下の角から右上の角へと対角線を引き、比率を比較しております。
途切れ途切れに引いてある点線は120号の対角線。短辺1に対して長辺1.5ですからだいぶ細長いです。
さすがにこの対角線に重なる比率は120号以外に有りません。
その右隣にある点線は4号と60号の共通の対角線です。
短辺1に対して長辺1.333。
ちょい細長めな比率です。
さらにその右にある点線は…6号・25号・30号・40号・100号に共通する対角線。短辺1に対して長辺1.25。
まあ…この対角線が最も多くのサイズに共通していますから、“標準的な比率の対角線” と言ってしまって差し支え無いでしょう。
40号以下の部分を拡大した図

※添付画像②
2枚目の画像は、40号以下の部分を拡大した図です。
邪魔になるので、こちらでは120号の対角線は省略しました。
8号~20号を見ると、すべてのサイズで…標準的な比率の対角線よりも右に “右上の角” が飛び出していることがわかります。つまり、これらのサイズの比率は…『より正方形に寄っている』と言えます。
“右上の角” の位置が標準的な対角線から最も離れているのは15号ですね。旧フランスサイズでは15号が一番正方形に近い比率なのです。
もう一度1枚目に戻っていただき…大きい方の50号~80号を見てみますと、すべてのサイズで “右上の角” が標準的な比率の対角線より左に引っ込んでいます。
つまり、これらのサイズの比率は…『より長方形に寄っている』と言えます。
あと、100号と120号の比率の違いもあわせてご確認ください。
100号はどっしりと椅子などに腰掛けた座像を…実物の人物より少し大きめに描くのにちょうど良さそうです。
120号の方は、ほぼ等身大か…ほんの少し実物より小さめに、立位の全身像を描くのにちょうど良い比率であることがおわかりいただけるでしょう。
さて、今回の本題です!
みなさん、キャンバスの号数の数字…何を意味しているかご存知ですか?
何に由来してあんな数字が割り振られているのか、考えたこと…ありますか?
美術の教員をしていれば、生徒さんからその意味や根拠を尋ねられたことが何度かあるはずですよね?
そういう時、どういうお答えをされましたか?
うっかり…間違ったことを教えちゃったりしてませんか?
っていうか…みなさん、号数の『数字』に関して今まで真剣に考えたことって有りますか?
何も考えること無く、ウソ情報を垂れ流しちゃったりしてませんか?
美術の専門家でさえ間違った知識でペラペラ語っちゃう人が多いのが、『○○号イコール、ハガキ○○枚分』というヤツです。
みなさんも一度や二度くらい…聞いたことありますでしょ?
テレビなんかでも時々そんなコト言ってますよね。
コレ、嘘ですよ!
間違いです!
ハガキなんかの大きさとキャンバスの号数はまったく関係ありません ‼
関係あるわけありません ‼
これ、計算してみりゃ誰でもわかること。
そんなの、小学校の算数レベルのハナシ。
みなさんは小学生より賢いでしょ?
まさか『号数 = ハガキ何枚分』なんてデマ情報…信じてませんよね?
もしもそんなデマ情報を信じちゃっているのなら、今すぐ改心してください。デマの拡散から身を引いてください。
今後、『号数 = ハガキ』だなんて…二度と口に出さないでください ‼‼‼
これだけ言われても…もしも改心なさるおつもりが無いのなら、それはそれでけっこうです。
そのかわり、今後一切『100号のことは100号とは呼ばず、142.63号と…。60号のことは60号と呼ばず、88.40号と…。50号のことは71.75号で、20号のことは29.77号で、10号のことは16.29号』…と呼ぶようにしてください。
それが、改心出来ないあなたがいつまでもすがり付こうとしている…ハガキの枚数分を示した数値です!
え? そんなの恥ずかしくって言えない?
いやいや、数値的には正確なんですよ。ちゃんと少数まで使ってるでしょ? だから恥ずかしくなんかないでしょ?
むしろ今現在、『100号ってハガキ100枚分のことを言うんだよ~』なんて生徒さんに説明しているのなら…その方が百倍恥ずかしいでしょ? だって、小学生だって計算さえすればウソだってわかっちゃうハナシを…教員がウソか本当かを判断出来ずにウソを言いふらしまくってるんですから。
きっと今頃生徒さん達に…『ウチの美術教員バカなのかな? 小学校で習う掛け算と割り算すら出来ないヤバいヒトだぜ』って陰口言われてますよ。
バカ扱いされてますよ。
ね、悪いことは言いません。改心しましょう。
『号数 = ハガキ』の考え方は棄てましょう!
改心出来ずに…いまだに号数がハガキの枚数だと信じ込んでるヒトこそがバカなんですから。
まぁこのように非常に迷惑な『号数 = ハガキの枚数』理論ですが、誰がこんなニセ情報を発信し始めたのか、見つけたらとっちめてやりたいもんですな。
みなさんも是非ご協力ください。みんなでデマ情報撲滅運動をしましょうよ。
また、『10号を2枚並べて20号…』なんて平気で言ってる人もいますが、全っ然違います!
形だって違うし、面積的にも合ってません!
言ってるヒト、恥ずかしくないのかな?
つまりこれも大嘘です ‼
号数と面積は… “対応” なんてしてませんからね。
20号は10号の2倍…ではないし、100号も10号の10倍なんかじゃありません!
計算してみればわかります!
『10号が2枚で20号』とか『100号の面積は10号の10倍』なんて…平気で言ってるヒトは、小学校の算数もまともにできない “かわいそうなヒト” なんです。たぶん数も20くらいまでしか数えられないんじゃないかな?
みなさん、そんなヒトは今後一切相手にしない方がいいですよ。
しかしこの号数の謎の数字、いったい何を表しているのでしょう?
この数字に特別な意味は有るんでしょうか?
そもそも、何に由来している数字なのでしょう?
みなさんの中でご存知な方はいらっしゃいますか?
では、キャンバスの寸法の歴史も由来も…ほぼすべてを知っている3ダースが、キャンバスの号数の数字に関してひと言でご説明して差し上げましょう。
刮目あれ!
『キャンバスの号数は、昔のヒトが勝手に決めちゃったんです。現在の号数の “数字” に、根拠なんかありません ‼ 』
これが答えです!
う~ん、素晴らしい!
単純明快!
みなさんも、生徒さんから質問されたら…『昔のヒトが勝手に号数を決めただけ。現在の数字に根拠は無いよ』って優しく答えてあげてください。
ま、ひと言じゃなく『ふた言』…になっちゃいましたけどね
つまり、現在の数字に厳密な “意味” なんか無いんですよ。
ただ単に “順番” を表しているだけですから…。
数字が大きい方が、面積は広い。
ただそれだけ。
どうです?
簡単なハナシでしょ?
ハガキみたいな “基準の大きさ” があって…それの○○枚分ってことで号数が決められてるワケじゃないし、号数の数字と…辺の長さや面積の間にも何の関係もありません。
現在の号数の数字の根拠なんか…マジで何も無いんです。
ほ~ら、楽になったでしょ?
あれこれ分析しようとするより、『根拠なんか無いんだ』って思えば悩まなくて済みます。
みなさんも、悩まないでくださいね。
あと、変なデマ情報を信じたり広めたりしないでくださいね。
めでたしめでたし。
一件落着!
…って、これでメルマガを終わらせちゃったら3ダースらしくないですよね?
じゃあ、もう少し続けますわ。
でも、今まで3ダースメルマガを読んでくれていた先生達なら…もうだいたいわかってらっしゃるはず。
『3ダースサン、日本サイズの基礎になったフランスサイズや…それより昔の旧フランスサイズを確認する必要があるんじゃないですか?』
『号数の数字と、辺の長さや面積の間には何の関係も無いっておっしゃるけど、たしか…面積に関してはいくつかのサイズでは比例関係が有りましたよね?』
そうそう
号数は…辺の長さなんかとは関連しませんが、メートル法導入よりも昔の “旧フランスサイズ” を調べれば…面積と号数との比例関係がうまくいく場面はたくさんありましたよね?
いいですねぇ。みなさん…いい線行ってますよ。
『3ダースサン、ハガキが基準っていうのも…日本のハガキのことじゃなく、フランスのハガキが基準だったんじゃないですか?』
あ、もちろんそれも調べましたよ。
でも、フランスのハガキは日本とほぼ同じ大きさでしたわ。
だいたい150 × 100㎜のようです。
ちなみに日本のハガキ (旧名称『官製ハガキ』・現名称『通常ハガキ』) は…148 × 100㎜です。
『じゃあひょっとして、フランスサイズの1号が基準ってことじゃないですか?』
いや、それは無いですね。
有り得ません。
だって、フランスサイズの1号とか2号が生まれたのはメートル法導入よりもっともっと後。それより100年くらい前から4号などのキャンバスは売られていましたから、フランスサイズの1号が基準になることは絶対有り得ません。
『あの~、さっきから気になってたんですけど… “現在の号数の数字には根拠が無い” ってやたらと連発してますよね? これって “当時の号数の数字には根拠があった” って意味の裏返しでしょ? お得意の “見て来たような昔話” で説明したくてウズウズしてるんでしょ?』
あ、バレてますね
はい。
では、お話しましょう。
昔々、フランスでのお話です!
何度も申し上げてますが、大昔は画家やその弟子たちが…自ら絵具も作っていたし、基底材である枠張りキャンバスもおそらく自作していました。
しかしやがて、枠張りキャンバスは…木工職人が木枠を作り、キャンバス屋 (後の画材店) が布を張って市販されるようになり、絵具も専門の絵具屋 (絵具メーカー) が作るようになりました。
つまり、画家は絵を描くことに集中出来るようになり…基底材などの材料は外部の者が受注生産をするようになっていったんですね。
やがて、木枠などは受注してからの生産ではなく…規格に従って量産された『既製品』を売るようになって行きます。
で、当時売り値が4ソルだった小さい枠張りキャンバスが…現在の4号のキャンバスの大きさに相当します。
(ソルは昔のフランスの通貨単位)
また、通称『6リーブル』と呼ばれていた大きなキャンバスもありました。
(リーブルは小振りな金貨の名前)
このキャンバスは今で言う120号に相当する大きさだったようです。
当時、リーブル金貨1枚の価値が20ソルだったので、6リーブルはソルに換算すると120ソルです。
『エキュ』というあだ名で呼ばれていたキャンバスは今の60号にあたります。
エキュは “大銀貨” の名前です。
当時の価値では、エキュ大銀貨1枚 = リーブル金貨3枚 = 60ソル…というわけです。
やがて、貨幣価値や物価が変動しても…そのまま4とか60とか120の数字は “キャンバスの寸法の呼び名” として残り、これが大きさを表す “号数” に使われるようになった…。
つまり、『大きさを表す号数の数字』は昔のフランスでの売り値の “名残 (なごり) ” だったのです。
これらのエピソードは…前にも話題に出しました1757年にフランスで刊行された『美術辞典』という書籍に記されていたようです。
当時のフランスでは…キャンバスの大きさを表現するのに、“貨幣の名前” とか “値段” を宛てて呼んでいたんですね。
今の日本でいうなら『諭吉』とか、『英世3枚』みたいな呼び名がキャンバスに付いてた…って感じでしょうか?
面白いですねぇ
ちなみに…ソル (sol) とは1715年にスー (sou) という名前に改称されたようですが、民衆の間ではその後も長くソルと呼ばれ続けていたもようです。
フランス革命後にスーは廃止され、サンチーム (centime) という通貨に受け継がれました。
1スー = 5サンチーム。
リーブル (livre) はフランス革命後にフラン (franc 厳密にはフランスフラン franc français = ₣) という通貨に等価で切り替わります。
1リーブル = 1フラン = 20スー。
1フラン = 100サンチーム。
エキュ銀貨 (écu d’argent) は名前の通り銀貨でしたが、厚みもあり大きさもデカかったので…リーブル金貨3枚分の価値が有ったようです。
なお、旧フランスサイズのキャンバスのすべての号数が…その値段で売られていたとは思っていません。
最初からすべての規格寸法が考案されていたワケではないはずですから…。
各サイズの店頭デビューには時間差が有るのが当然です。
原初的な寸法であると思われる4号・60号・120号。あと…6号・25号・100号くらいが、号数通りの値段で売られていたのではないでしょうか…。
すべてのサイズがラインナップされるまでには当然物価上昇なども有ったでしょうしね。
結論を言うと、16種類ものサイズが出来ちゃったので…それを順に並べて “適する数字” を宛てて行き、今のような配列になった…。ただそれだけのハナシなのです。
だから、現在の号数の数字の意味を説明するには『大きさの順番を表している』…っていうのが唯一の正解でしょうね。
『号数は昔の値段を表している』…という解答だと不正解ですよ。
16種類すべてのサイズがその値段で売られていたワケではなく、ほとんどのサイズは号数の数字と売り値のズレが出始めてから作られたと思われるものばかりですから…。
みなさんが生徒さんからの質問に “正確に” 答えたいと思うのなら、模範解答は…『号数の一部は昔フランスで売られていた値段の名残りらしいけど…現在の号数の数字に根拠なんか無いよ。敢えて言うなら、面積の順番を表してる…かな。小さいのから順で…』って感じですかね。
昔のキャンバスはその号数の値段で売られていた…と聞いてピンと来た人もいるかもしれません。
現在…絵画を売買する際も、号数が売り値を決める基準にされていますよね。
『号3万』というランクの画家の絵なら6号で18万円、10号で30万円。
『号10万』の画家の絵なら6号で60万円、10号で100万円…というわけです。
キャンバスの大きさ (号数) のハナシ、わかっていただけましたか?
何度も言いますが、ハガキが基準ではありませんからね。
ではどこから『キャンバスの号数 = ハガキの枚数』というガセ情報が流れ出たのでしょうか?
おそらく日本における画材史研究の第一人者・M氏の著書の中の一つの文を読む上で、解釈の間違いからガセ情報が発生したのではないか…と3ダースは分析しています。
M先生には責任は無いと思いますよ。
担当編集者が無能だったため…それに後の世の読者の読解力の無さから発生した “誤解釈” と思われます。
その文は…
【○号Fはほぼ往復ハガキ大である。】
という箇所。
これね、分かりやすく書くと『F0キャンバスの大きさはほぼ往復ハガキと同じである』っていう意味の文なんですが、“漢数字のゼロ” を “記号のマル” の書体で代用した状態で出版されちゃっているので、読み手の読解力が無いと『○』をゼロだとは思えず… “代入可能な伏せ字” 、つまり数学でいう『x』とか『y』みたいな “未知数記号” と勘違いしちゃうんじゃないかなって思うんですよ。
現代の新聞などでは、縦書きの文章でもなるべく算用数字を使って書くようになっていますよね。
でも、M先生の文章が最初に発表されたのは昭和の後期なんですよ…。
その頃の常識として、縦書きの文章に算用数字を使うのはほとんどタブーみたいな感じだったんです。縦書きの文にはひたすら漢数字ばかりが使われてましたから…。もちろん当時の新聞もそうでした。
当時…縦書き文にどうしても算用数字をブチ込みたい時には、アルファベットと同様に数字を時計回りに90°回転させて嵌め込んでましたからね
ちなみに…記号のマルと漢数字のゼロは、現在では明らかに別の書体を使います。
明朝書体の『漢数字のゼロ』は、ほんの少し横長の楕円形(書体によっては正円の場合も)で…楕円の縦線部分が太くなっています。ゴシック書体なら太線のマル→『〇』が漢数字のゼロです。
一方、“記号のマル” は細線の『◯』です。
でも、このような専門書を発行する出版社なら昭和の頃でも漢数字のゼロの書体は持っていたはず。このM先生の本は、おそらく担当編集者に知識や能力が無かったため記号のマルを使って『◯号』と印刷されてしまったのでしょう。これでは読み手は “ゼロ号” とは読めず、“マル号” としか読めません。
縦書き文章には必ず漢数字を使う…という昭和の頃のルールを知らない現代の読者が、上記の文を『○○号っていうのはほぼハガキ○○枚分…』というふうに早とちりして読んでしまったんでしょうね。
現代人の中には『往復ハガキ』というモノをご存知ないヒトも…けっこうな割合でいらっしゃるようですし。
このように、読解力の無いヒトが生半可な解釈でデマ情報を言い始めたのではないか…と3ダースは想像しております。
【第56回終わり】













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