はじめに
『紙の事はもうこりごり。今度はキャンバスについて語って欲しい』とのお声をいただきましたので、今回からキャンバスのハナシです。
よくある間違い:「キャンパス」と「キャンバス」
キャンパス(Campus)
これは「大学の敷地・大学の構内」のことですね。 または、コクヨのノートの名前です。
キャンバス(Canvas)
油絵を描く「アレ」の名前は『キャンバス』です。
『バカにしないでください! それくらい知ってます!』って声も聞こえてきそうですが、事実…時々この言い間違いや書き間違いに遭遇することがあるんです。
もちろん一般のヒトのことじゃなく、美術教員による間違いです…。
まあ、書き間違いはしょうがないかなぁ。 誤変換とか、あと…3ダースでさえ視力の衰えから『”』と『゚』の判別が出来なくなり始めてますから…。
でも、言い間違いはまずいでしょ? 『キャンバス』と『キャンパス』は別なコトバですから気を付けましょうね。
発音について
正確に発音したいのなら『キャンヴァス』…の方が良いのかもしれませんが、美術の先生が下唇に前歯を当てて発音しちゃうとちょっと気取った感じがしてイヤですよね。
『バ』で行きましょう、『バ』で。
キャンバスの種類
1. 枠張りキャンバス
普通「キャンバス」と言うと、木枠に張られた『枠張りキャンバス』の事を指すと思います。
でも、それ以外にも「キャンバス」ってあるんですよ。
2. カットキャンバス
木枠に張られる前の、布だけの状態は『カットキャンバス』です。
“張りしろ”を考えて木枠寸法より大きくカットするのがポイント。
- 4~20号までのサイズ:木枠寸法+65㎜
- 25~60号:+80㎜
- 80~130号:+95㎜
- それ以上:+110㎜を目安に切り出します
(使う木枠の厚みと布の伸びやすさを考慮に入れて調整すると良いでしょう)
3. ロールキャンバス
カットキャンバスを切り出す前の、巻き物の状態が『ロールキャンバス』です。
- ほとんどのロールキャンバスは10m巻き
- 幅は…**140㎝あるいは145㎝**をメインに、いろいろあります
キャンバスの素材
キャンバスの布は、『麻』か『木綿+ポリエステル(綿+ポリ)』が一般的です。
他にも『ビニロン』という合成繊維のキャンバスもありましたが、現存してるかは知りません。
- 『麻』:主に油絵用
- 『綿+ポリ』:主にアクリル絵具用
麻のハナシ
ここでちょっと麻のハナシ…。
油絵用のキャンバスは麻の糸で織られた布で出来ています。
でも『麻』って言っても色々な種類があるんですよ。
繊維を採取するために栽培される作物で、とても丈夫で長い繊維が採れる植物全体を総称して『麻』と呼んでいますが、そのそれぞれが…すべて別々な種類らしいんですよ。
では、主な『麻』をご紹介します。
●大麻(たいま)
繊維名…ヘンプ
[アサ科アサ属]
日本で最も古くから繊維に利用されていた植物です。
諸事情により、今は勝手に栽培できません。
許可された者だけが限られた地域で栽培していますが、その主な産地は北関東のT県だそうです。
栽培は手間もかからず簡単らしいのですが、個人がベランダなどで栽培するとナゼか逮捕されます。
また、この植物から採った「樹脂」を扱うと有罪になるそうですが…繊維の利用は罪に問われないそうです。
ですので、この植物から採った繊維は…神社のしめ縄や伝統的な和紙の原料などに使われているそうです。
●苧麻(ちょま)
※からむしとも読む
繊維名…ラミー
[イラクサ科カラムシ属]
日本では大麻より後に普及しました。室町時代に栽培が全盛だったようです。
現在も麻の和服はこの苧麻製がほとんどのようです。
この苧麻の繊維も、伝統的な和紙の原料に使われているそうです。
●亜麻(あま)
繊維名…リネン
[アマ科アマ属]
明治期に日本での本格栽培が広まりましたが、生産性が悪く昭和中頃に栽培は終了し、現在はすべて輸入に頼っているようです。
国内に普及するほとんどの麻の衣料品は、この亜麻製です。
亜麻の種子からは『亜麻仁(あまに)油』が採れます。この油は食用としても最近注目を集めていますが、美術教員のみなさんにとっては油絵具の画用液『リンシード』として知られているでしょう。
(画用液として売られているリンシードは飲んではいけません)
●黄麻(こうま)
※おうまとも読む
繊維名…ジュート
[アオイ科ツナソ属]
インド麻とも呼ばれます。
カーペットの下地や頑丈な麻袋(南京袋)の原料に使われています。
●マニラ麻
繊維名…アバカ
[バショウ科バショウ属]
主にロープの原料です。
沖縄特産の『芭蕉布』を織る糸としても使われます。
意外なことに、日本の紙幣(お札)の原料にも使われています。
●洋麻(ようま)
繊維名…ケナフ
[アオイ科フヨウ属]
木材パルプの代用として製紙用に使われたりします。
油絵用キャンバスに使われる麻
ね、どれもまったく別々の植物なんですよ。
この中で、油絵用のキャンバスに使われるのは『亜麻』です。
だから、亜麻以外は覚える必要ありません。
(一部、極荒目のキャンバス用に黄麻が使われていたこともあります)
なぜ亜麻が選ばれたのか?
なぜ、数ある繊維の中から油絵用のキャンバスに亜麻が選ばれたのでしょうか?
いくつか理由が有りそうですね。
1. 繊維の引っ張り強度が強い
糸が簡単に切れちゃダメですからね。
2. 繊維の伸縮度が非常に小さい
伸縮が大きいと枠に張っても簡単にたるんでしまいますからね。
3. 酸化に強い(最大の長所)
これ油絵のキャンバスとして、最も大事なことじゃないですか?
だって油絵具って、酸素と油がくっついて(すなわち酸化して)固まるんですから。
※この現象を酸化重合反応と呼びます。
酸化に弱い繊維では、油絵用のキャンバスの役目は務まらないでしょう。
本当の理由(3ダースの推測)
でも、キャンバスに亜麻が使われるようになった「本当の理由」は、**『亜麻の布がたくさんあったから…』**だと3ダースは思います。
キャンバスが油絵に使われ始めた頃、それは大航海時代と呼ばれる時代と重なります。
帆船の帆のための布(帆布はんぷ=キャンバス)が大量に織られ、また亜麻も大量に栽培されていたのです。
当然、帆布には引っ張り強度が強い繊維が選ばれるでしょうし、伸縮度も小さい方が良いはずです。
酸化に強かった…っていうのは、**結果的にそうだっただけのこと…**だろうなと思います。
(個人の勝手な推測です)
つまり、油絵のキャンバスは帆船用の帆布(キャンバス)の転用・流用だったってことです。
【第19回終わり】














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