前回のメルマガでも少し触れましたが、枠張りキャンバスと油絵用
なんで同じ規格にしてあるんでしょうか?
このふたつ、何か関係があるんでしょうか?
ええ、あるんですよ。
実は枠張りキャンバスもパレットも、同じルーツを持つ…兄弟みた
前に…枠張りキャンバスが一般的に使われるようになる前、『油絵
ですので枠張りキャンバスが完全に普及してからは、さすがに木の
でも、木の板を使ってスケッチ (写生) やエスキース (下絵) 程度の物をちょちょいと描いちゃう…っていう人は、その後もけっ
今の時代でもキャンバスに “本番の油絵” を描く前に、構想を練るためにスケッチブックなどに『下絵』を何
美術部員の生徒さんにも、そういうふうにやらせてますか?
あ…鉛筆やら木炭だけのデッサンじゃなく、ちゃんと絵具を使って
でないと、完成のイメージが作れないでしょ?
モチーフの配置や背景の面積、色の対比など…。
風景画だとしたら空をどれだけの広さで入れるのか、人物画ならモ
何パターンか下絵を描いてみるのが普通でしょ?
いや、まあ1枚だけでもいいですよ。何かしら、“下絵的な物” がある方が、本番のキャンバスに向かうにあたって心強いでしょ?
ほとんどの人はスケッチブックに鉛筆でラフにスケッチし、水彩絵
でも…それ、変じゃない?
うん、変ですよね。
だってこれから油絵を描くってのに、その準備のために水彩絵具一
もしそれが屋外での制作だとしたら、水やバケツまで持って行くん
すごく面倒でしょう。
つまりソレ、なにか間違ってるんですよ。
そう、油絵の構想を練る『下絵』を描くのに… “水彩絵具を使う” っていう部分が間違ってますね。
みなさん、もうわかりましたか?
本来…油絵を描く前の下絵は、水彩絵具ではなく…油絵具で描くの
簡単なことでしょ?
準備する道具は油絵セットだけでいいんです。ですから… “デキる人” は下絵を描くために何枚かのキャンバスボード (紙製の物で充分) を準備していますね、スケッチブックなんかではなく…。
こうありたいものです。
今まで水彩で下絵を描いていた生徒さん達も、油絵具で手早くキャ
水彩の道具を準備してチマチマとスケッチブックに描くより、ずっ
でもね、昔はもっともっと便利な画材があったんです。みなさんの
『スケッチ板』という商品
実は3ダースも、もう三十数年 “それ” を見たことありませんが、かつて…『スケッチ板』という商品があ
あ、誤解のないように。
小学生が写生会で使う…画用紙を乗せる『画板』の事じゃないです
このスケッチ板は “油絵を描くための木の板” です。
あと、水張りに使う『木製パネル』とも全っ然違いますからね。
ベニヤじゃなくて、無垢の薄い板です。
またこれは…ダ・ヴィンチなどの時代に基底材にされていた “板” とも全然違うタイプの物なんです。
(当時の基底材は…板の反りの影響が出るのを恐れて幅の細い板を
つまりこのスケッチ板というものは、純粋にスケッチ (写生) やエスキース (下絵) をちょちょいと描くためだけの…簡易的な画材だったんです。
材質は桂か桜で、表面がよく磨かれた “一枚板” でした。
絵を描くためのものですからキャンバスとまったく同じサイズで作
1977(昭和52) 年に刊行された画材カタログによりますと…サムホール・F3・F
あくまでも写生や下絵用でしたし、反りやすい一枚板でしたので…
この板の材質 (桂や桜) は、まさに現在市販されている木製パレットと同じなんです。
つ・ま・り…スケッチ板とは、わかりやすく言うと『指穴』と『切
どうですか?
イメージ出来ましたか?
このスケッチ板、実は大変便利だったんですよ。
いきなり油絵具でスケッチ板に描くことも当然出来るんですが、“
そうしてから油絵具で描くと、描き終わっても絵具が乾く前であれ
チョークで書かれた黒板を黒板消しで消しちゃう、みたいな感じに
なのでこれ、何度でも使えたんです。スグレモノでしたよ。
ちなみに現在の木製パレットは表面を塗料でコーティングしてあり
つまり事前に油をしっかり浸み込ませておけば、絵具の色素が木の
でもこのスケッチ板、パレット同様の “良い木材” を使っていたため…決して安いものではありませんでした。
安価な紙製キャンバスボードの普及により、昭和の終わり頃か平成
油絵の技法が確立したばかりの頃
ちょっとハナシは変わりますが…油絵の技法が確立したばかりの頃
もちろん画家本人が練ることはおそらく無く、弟子が一生懸命練っ
顔料と油を練るには…頑丈な大理石の『練り板』と、同じく大理石
これらの道具一式はとても重いので、容易に工房の外に持ち出すこ
また…練り上がった絵具は現代の油絵具に比べるとはるかにユルい
ですので、この時代の画家は…取材のためにスケッチに出かけるこ
道具や絵具が…持ち運ぶことを想定した作りになっていなかったか
油絵は、ひたすら工房の中でのみ…描いていたのです。
風景画を描く時ですら、木の枝とか石コロを拾ってきては工房に持
どうです?
ちょっと意外に思う読者さんもいらっしゃるんじゃないですか?
この頃の時代の…手に持って使う『パレット』は、どんなものだっ
どうやって画面のそばまで絵具を運んだのでしょうか?
大理石の練り板ごと…なんて、重たくて手には持てませんよね。
おそらく…自分達で使いやすいように木の板を加工して、パレット
この時代に “既製品のパレット” なんてありませんからね。
筆だって、ほとんどが自作だったんじゃないでしょうか?
(もちろん画家本人は筆を作ったりしないでしょうが、筆作りの得
つまり…この頃の画家たちはそれぞれ独自に道具を作り出していた
多くの人がイメージするように…昔の画家がみ〜んな丸いパレット
画家達はおのおの、世界にひとつだけの独自のパレットを持ってい
でもそのパレットに、現代の絵描きのように20色近い絵具を一度
必要最小限の絵具だけを乗せて使っていたんじゃないでしょうか?
ですので、木の板の平面なパレットだけではなく…陶器の皿なども
道具一式を持ち出して屋外で油絵を描くようになったのは、印象派
油絵の技法がほぼ確立したのが15世紀前半…印象派の出現が19
なぜ屋外での油絵制作が、印象派の頃に可能になったのでしょうか
それはその頃、『市販の油絵具』が出現したからです。
つまり、画家やその工房内の弟子達ではない… “外部の人” が、保存と持ち運びが可能な『容器に入った油絵具』を売り始めた
いやあ、すごい人達が現れましたねえ。
彼らが絵具メーカーの “先駆け” なわけですよ。
おそらくこの人達は、画家の工房に弟子入りしたものの…絵の腕前
独立して自分の絵画制作工房を構えることも出来ず、つまり…絵で
油絵具は空気に触れたままだと固化しますから、とにかく空気を遮
初期の “容器” は豚の膀胱だったと言われています。
ま、今の感覚でいうと小振りのゴム風船みたいなイメージでしょう
小さいゴム風船に入った丸い羊羹とかゼリー、見たことありません
アイスもありますね。
たしか『おっ◯いアイス』って名前のやつが今でも売られています
あんな感じですよ。
でもこの豚の膀胱、開封すると再び密閉するのは困難。
こんな程度の保存方法は、画家の工房内で絵具が練られていた時代
商売にするならもっと完璧な方法を考えねば…。
やがて金属製の本格的な容器が出現したため、絵具メーカーという
真鍮製の注射器のような “シリンジタイプ” とか、軟らかい錫 (すず) で作った…現在と同様の “チューブタイプ” 。
硬い真鍮製の容器は…なんと再利用が可能なスグレモノでしたが、
錫の “使い捨て” チューブが業界を席巻しました。
チューブのキャップも…初期は押し込むだけの “コルクの栓” でし
たが、間もなく現在と同様の…密閉度の高いネジ式のキャップに移
チューブの材質も…錫単体からやがて錫+鉛に切り替わり、ホント
(現在はアルミ製チューブです。ただ、油絵具の成分がアルミを腐
絵具メーカーの出現により、『持ち歩けて保存が利 (き) く』油絵具が市販されるようになりました。
同様に筆や枠張りキャンバスも、“工房外” で作られたものが流通し始めます。
つまり、『画材店』の誕生です。
枠張りキャンバスが当たり前に使われるようになっていたその当時
(印象派の時代は、紙がまだ高価でしたし…)
中にはその板に直接タブロー画を描いちゃう者もわずかにいたでし
そういう画家達の要望に、画材店は板を切り出して作った『商品』
枠張りキャンバスと同じ規格で板を切ればいいだけですから、画材
安く、大量に作られたことでしょう。
印象派の頃の画家達は、チューブ入りの絵具を持ち…白いキャンバ
これは、絵画史上とてもとても画期的なことでした。
そこで必需品になったのが、軽い携帯式のパレット。すなわち、木
屋外の制作に重たい陶器の皿を何枚も持っていくわけにはいきませ
当然…印象派の頃の画家達も、かつての巨匠達のように自作のパレ
しかし、屋外に持ち出す自分達の道具の中にもパレットそっくりな
このスケッチ板のうちの一枚を…パレットとして即興的に使う画家
これが現在の『角型パレット』の始まりではないか…と、3ダースは考
(個人の勝手な推測ですけど…)
本来は画家がおのおの自作していたパレット…。
ゆえに…世の中に同じパレットなぞ存在しなかったわけですが、ス
そのため世の中のすべての絵描きが “パレットを自作するという作業” から解放され、みんな同じカタチのパレットを持つようになった…
このように考えております。
(あくまでも、勝手な妄想です)
スケッチ板を加工して作ったパレットですから、その大きさはキャ
まとめ
では、改めて歴史を振り返ってみましょう。
ダ・ヴィンチやそれ以前の画家の頃の基底材である… “幅の細い板をはぎ合わせて石膏などを塗った物” から油絵が始まり、やがてベネチアで木の枠に亜麻の布を張った…
ほらね?
枠張りキャンバスと油絵用のパレットは…兄弟って言う程は近くな
こういう経緯で、パレットの大きさはキャンバスの寸法に準じてい
【第45回終わり】














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