『額縁の断面図ってどんなものですか? いまいちイメージできないんですが…』とのご質問がありましたので、公開します。
添付画像の1枚目がそれ。
3ダースがH氏に額縁の製作を依頼した時に描いた断面図です。もう20年以上前に描いた図面ですが、奇跡的に引き出しの奥に残っていましたので引っ張り出してコピーしました。
実際には長さや幅などの数値が㎜単位で書いてあったり、仕様の指示などが細かく書いてあるんですが、それは消しておきました。
図の右のデコボコしてる部分が額縁の主要部分である『フレーム』です。ここで使ったのはH氏の代表作の『F型フレーム』。
本来はその内側に “入れ子面金” という細めのパーツをはめ込むのがH氏のF型フレームの標準仕様なのですが、3ダースの注文では…幅のある麻布貼りの “ライナーマット” をはめ込む特別仕様に変更してもらい、額縁のトータルの幅を広く見せる手法をとりました。
実際…作品サイズはF15でしたので、細めの入れ子面金をはめた通常仕様のF型フレームでは少し頼りなかっただろうと思います。
断面図の下に数字の『1』のようなカタチの図を付け加えておきましたが、これが “入れ子面金” の断面図です。
真上に描かれたライナーマットより幅が狭いことがわかると思います。
額縁の正面にはガラスが入りますが、図のようにフレームとライナーマット (あるいは入れ子面金) でガラスを挟むことで…ガラスを支えているのです。
つまり、フレームの内側にライナーマットとか入れ子面金という…もう一つの『枠』をはめるのは、単に “飾り” とか “見栄え” とかの目的だけじゃなく…ガラスを支えるという大事な役目もあるのです。
ライナーマットや入れ子面金という “内側の枠” を使わず…フレームだけの “ひと枠のみ” という構造では、ガラスをはめ込むのは物理的に不可能なのです。
ちなみに、H氏にこの額を発注した頃は10号までの額縁にはガラスを…12号以上の額縁には透明アクリル板をはめるのが一般的なルールでしたが、3ダースはアクリル板で生じる反りやたわみが大っ嫌いだったので…F15サイズの大きめな額でしたが敢えてガラス仕様で発注しました。
(なお、2011年以降は基本的に業界全体でガラスは使わないような流れになっています)
ちなみに、断面図のフレームの下の…X字形になるように対角線を描いてある角材は『ドロ足』と呼ばれるパーツです。内側のライナーマットの高さやはめ込むキャンバスの厚み…裏板の有無などでドロ足の高さは㎜単位で変わってきます。
ドロ足の高さもしっかり指示をしておかないと、少し緩め (大きめ) に作られてしまうので…結局後で厚み調整をする手間などが増えます。油絵用の額縁は “その作品” にしか使わず…使い回しをするものではないので、ドロ足の高さを指定できる “特注” であるのなら…ピッタリの寸法になるように発注したいものですね。
この断面図が描いてある用紙にそういう変更事項や要望を書き込んだものをたった1枚FAXすれば、発注者と職人のお互いが…すべての情報を理解・共有出来るのです。
なお、3ダースが仕様変更してでも使いたかった麻布貼りのライナーマットの先端 (刃先面金と呼ばれる金箔貼りのライン状の部分) には『純金箔』を貼ってもらう…という、超々こだわりの特別仕様でした。
大手の額縁メーカーとFAXでやり取りする際にも、たとえフリーハンドであれ…自分で描いた断面図を添えて問い合わせなり製造の指示なりをすれば、何も図を添えない場合よりも10倍ハナシが早いですね。
断面図を描く能力と断面図を読み解く能力は、額縁を扱う上で必須なビジネススキルなのです。
年末年始に帰省をされていた…という先生から額縁に関するご質問をいただきました。
ご実家に飾ってあった油絵の額の “箱” を押し入れから探し出したら、メルマガ第28回に書いてあった『布貼りのタトウ箱』だった…とのこと。箱の中にはちゃんと黄袋も入っていたため、その額が高級なモノらしいということがわかって良かった…とのこと。
(ご両親が若い頃に都内の画廊で買ったものだとか)
ただ、額の裏を見たら吊り金具が “一組” しか付いていなかった…とのこと。
『普通、額縁の裏には二組 (計4個) の吊り金具が付いているはずだから、この額は不良品だったのでしょうか?』とのご質問でした。
どうやら額縁自体がその先生の気に入ったようで…その絵を外して先生自身が額を使っちゃいたいらしい (ご両親も元々の絵は飽きたとのこと) のですが、先生が描きたい作品は横構図なのにその額には縦用の金具しか付いてなかったから困っている…と。
あ、あの~…それ、不良品なんかじゃないですよ。
むしろ、一組しか金具が付いてないなら…高級な額縁っていう可能性が大。
実は現在でも高級な手作り額縁には吊り金具が付いて来ない場合があるんですよ。
それに、おそらくその額縁が売られていた当時 (20年以上前) だったら、大量生産しているような大手メーカーではない…小規模な額縁工房製の額だったとしたら、吊り金具が付いていないモノがほとんどだったと思いますよ。
つまり、“高級な手作り額縁” には最初っから吊り金具なんて付いてないのが普通だったんです。
『じゃあ…お店でその額を売る時どうするの?』って思います?
そう、小売店でお客様に “販売する時点” で吊り金具を付けてたんですよ。我々小売店の店員が…。
お客様の『中に入れたい絵』が縦構図なのか横構図なのかをうかがい、その場で一組だけの吊り金具を付ける。
そういうものです。
中には画家 (シロウト画家も含む) が自分の作品に何度も何度も使い回しをするために買うような場合には縦横両方で使えるように二組 (計4個) の金具を付けますが、繰り返し言いますけど…基本的に額縁は使い回さないもの。
中に入れる『その一枚』のためだけに買う場合の方が圧倒的に多いため、吊り金具は一組だけ付ければ充分なのです。
その作業のために、我々小売店は吊り金具を “100個入り” とかの箱単位で金具メーカーから仕入れていました。もちろんその金具を “部品” の状態で欲しがるお客様には小売りもしていましたが、基本的に店の作業場で…金具の付いてない額縁に取り付けるためだけに箱単位で仕入れていましたね。
しかし今現在、ウチの店で扱っている額縁は大手メーカー製の額縁がほとんどですから、当たり前に吊り金具は二組 (計4個) 付いた状態で入荷して来ます。ですから、この先生がおっしゃるように…二組揃って付いていなければ不良品と呼ばれても仕方ないでしょうね
。
実際ウチでも金具メーカーから吊り金具を箱単位で仕入れるようなことは…もうやっていません。
金属製の仮縁『CDシリーズ』にも、30年くらい前には一組の吊り金具しか付属していませんでしたね。
学校納品の場合は吊り金具はフレームに取り付けず、パーツの状態で納品し…はめる作品にあわせてそのつど金具をつけ直していただくってやり方だったと思います。
あと…これはだいぶ前にいただいていたご質問で、その先生にはすぐに回答を済ませていたのですが…一応他の読者様にも共有していただきたい情報ですのでそのやり取りを公開します。
『額縁の吊り金具を自分で付ける場合、どのあたりに付けたら良いのでしょうか?』とのご質問でした。
『上から “4分の1” から “3分の1” の範囲の場所に付けるのが良い…とされています』と、一般的に言われている回答をまずお伝えした上で…『自分はまずフレームの縦の辺の長さを実測し…その長さに “0.3” を掛け、縦の辺の上の端からその数値分の位置に吊り金具の “紐を通す場所” を合わせるように置き…金具を固定しています』と、自分なりのやり方をご紹介しました。
実際、4分の1とか3分の1の値を出すのは割り算ですけど…0.3を掛けるは掛け算です。ぶっちゃけ…暗算でやるなら掛け算の方が早いですし、実質『3』を掛けりゃあいいだけのハナシですから…簡単なんですよ。
金具を付けるのは、油絵用の額であれば『フレーム本体の裏面』です。つまり…『ドロ足の裏面』に付けるのは “間違い” です。
ただ、フレーム本体の厚みが極端に薄くて…裏からネジを打ったらフレームのオモテに突き抜けてしまいそうな場合は、仕方がないですがドロ足に付けることになるでしょう。でも、3ダースの経験上そういう額縁はほとんどありませんでした。
ですから、他にまったく選択肢が無い場合を除き、ドロ足に吊り金具を付けるのは避けましょう。
※ ドロ足という呼び名の由来は、その昔『ドロノキ (泥の木・白楊) 』という木材を使っていたから…と言われています。この木材は、建材などに使われる木材より軽くて軟らかいのですが…当然強度も弱いのです。
この機会に、いろいろある吊り金具のご紹介も…
添付画像の2枚目をご覧ください。
左の『P型吊カン (Pカン) 』と『N型吊カン (Nカン) 』が油絵用の額縁に使われる金具です。
油絵用の額では20〜30年前はPカンが大流行していましたが、今では圧倒的にNカンがメインのようです。
中央の『板吊』は、金具本体に直接紐を通すタイプ。
金属の “輪っか” が付属しないので、裏面がまっ平らな額などに重宝されます。
例えば…大きめの水彩額や、油絵用の箱型額縁 (『角箱』とか『K-BOX』とか『デュエット』という名前の額) の裏面に使われます。
右側の金具は小型の額縁に使われる金具です。
『豆カン』と『三角吊カン』は実質的には同じカタチのもの。大きさが最小のものを “豆カン” と呼ぶようですね。
なお、『カン』という字は正式には『釻』という漢字で書きます。
この漢字は、和箪笥の引き出しの取っ手に使われるようなリング状の金具を指す字だそうです。
最後に、額縁をキレイに壁に飾るための裏ワザをご紹介。
水彩額や、油絵用の “箱型額縁” のように…裏面がまっ平らの額を壁に掛ける際、フレームの下の辺の裏に付いている “使っていない吊り金具” をあらかじめ取り外しちゃうと…すごくキレイに飾れますよ。
元々付いている金具を外しちゃう…ってことに抵抗があるヒトもいるかもしれませんが、そもそも使っていないモノですから…外しちゃっても痛くも痒くもありませんよね?
大手メーカーの大量生産された額縁なら、吊り金具は最初から必ず二組 (計4個) 付いちゃってます。しかし、実際に使うのは一組ですよね?
飾る時、フレームの上になる辺の裏の金具と下になる辺の裏の金具は使いません。つまり付けてある意味すらありません。
まぁ、上の辺の裏の金具は付けてあるままでも別に “悪さ” はしないんですが…『下の辺の裏の金具』の方は付けたままでは “百害あって一利無し” なのです。
下の辺の金具が壁に当たって…額縁のオモテ面を壁の面に対して微妙に傾むける “悪さ” をするんですよ
まさに『百害』!
これ、一度気になると…ものすごい違和感なんですよ。
我々は額縁を売るだけでなく…当然額装作業もしますし、時には企業や公共の場などへの額の設置や…展覧会会場での陳列作業の指揮を執ったり陳列の手伝いもしたりします。
設置や陳列の際には額の傾きなどにも当然気を遣いますが、『下の辺の裏の金具の “悪さ” 』が原因の傾きに関しては…金具を外す以外の解決策は無いんですよ。
これ、みなさんにも実際に試して欲しいんです。フレームが細い水彩額や油絵用の箱型額縁には特に有効です。
下の辺の使っていない吊り金具…しかもその金具が壁に当たってしまっているのなら、それを外す!
ただそれだけ!
ものすごく簡単!
金具を外しちゃえば…額の下の辺は壁にピッタリ寄り添うようになり、傾きの違和感は無くなります。
これ、考えた人…天才!
【第58回終わり】













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