第36回_答えづらい質問への、精一杯の回答とサクラクレパスのハナシ

はじめに

前々回、『全日本学生美術展は学生にとって最も出品しやすい…チャレンジしがいのある良い展覧会だと思っています』と書きました。

これに、若い読者の先生から異論をいただきましたよ。まぁ予想通りでしたが…。

『全日本学生美術展は出品料は有料ですよね? 出品料が無料で、日本を超えて海外にも広がってるスゴい展覧会があるんですけど…3ダースサン、ご存知ないんですか?』って…。

😅


高校生国際美術展について

知ってますよ。

今年も2校分、明日搬入に行きます。

学生が出品する展覧会で、出品料が無料の展覧会といえば…『高校生国際美術展』の事ですね。

はい。確かに出品料 “は” 無料です。

ウチも、けっこう昔からあちこちの学校から頼まれて、搬入には行ってますよ。

頼まれたなら搬入には行きますが、ウチからは積極的にその展覧会への出品はすすめておりません。

なぜ積極的にすすめないのか

ただ、なんですすめないかは…ちょっとメルマガでは言いづらいです。

先程の異論を申し出てくださった先生には…直接メールで丁寧にお答えしましたよ。

その先生は、3ダースからのメールの内容にびっくりなさってました 😅

まあ、みなさんにも少しお考えいただきたいですね。

出品料無料って、そんなにありがたいことなんですか?

本来、審査を受け…美術館に陳列されることを望んで公募展にエントリーするのであれば、出品料(参加費)が有料であるのは当然ですよ。

当たり前でしょ?…偉い先生達に審査していただくんですから。

みなさん、大学受験した時だってお金払ってたでしょ? 受験料。

色んな検定とか…免許とかの試験も、お金払って参加しますよね?

受験料無料の試験なんて、逆に怪しいでしょ?

それってヤバイやつでしょ?

運営費はどこから?

展覧会だってそうです。

展覧会の運営や…その広告宣伝、そして展覧会会場を借りるのにだって当然お金がかかってるんだし…。

しかも高校生国際美術展は六本木の国立新美術館が会場らしいですね。上野の東京都美術館より賃料は高いってハナシですよ。

また、搬入受け付けや作品返送のために…外部の美術運送業者さんに業務委託もしているようだし…。

出品料が無料なら、展覧会の運営費やら会場費やら業務委託に使われるお金は…一体どこから出てるのかな?

出品したがる高校生(子供)ならいざしらず、オトナだったらその “背景” を視野に入れて考えるべきでしょ?

オトナである顧問が…出品料無料ってコトバに目が眩んでしまったのなら、値段でしか業者を選べないクズ教員と同じですよ。

背景を考える

また、その高校生国際美術展は…受賞者に対して過度な接待や特典が存在するようにも聞きます。

表彰式にどんな来賓が来るのか、展覧会の主催者は誰なのか、みなさんご存知かしら?

そういうのをしっかり調べてから出品してもいいんじゃないでしょうかね?

あの展覧会は…受賞者を誰かが利用しようとしてるんじゃないか?…受賞者の人生に誰かが立ち入ろうとしているんじゃないか?…と、周りから疑われてもおかしくない構造になっていると、個人的には思っています。

そういう背景を考えたら、3ダースはこの展覧会から距離を置きたくなります。

でももちろん、搬入を頼まれたなら…そりゃあ持って行きますよ。生徒さんにとったら数少ない発表の場だし、作品を評価されるチャンスなんだろうし。

もちろん顧問の先生も…出品者である生徒さんご本人も…そして出品者の親御さんも、主催者の “思想信条” を充分理解し、納得して出品なさっているのなら…応援してあげたいとは思ってます。

これ以上は…

あぁ、奥歯にモノが挟まったような言い方で…すみません。

これ以上の事は、ここでは言えません。

はっきりした情報を聞きたい先生は、3ダースに直接メールでお問い合わせください。単刀直入にお答え申し上げます。


全日本学生美術展の出品料について

さて、一方の『全日本学生美術展』。

出品料は確かに有料ですが、そんなに高いとは思えませんね。妥当な金額ですよ。

他に『学展』という…やはり学生さん向けの展覧会がありますが、学展の出品料はけっこう高いようです。

必然的に…と言うか、集まる作品のレベルも高いように聞きます。

まあ…それらをすべて調べた上で、もちろんさらにそれらすべての展覧会を観覧した上で…どこに出品するかを決めていただければ良いかと思います。

でも調べたり観覧したりもせずに、とりあえずどこかに出品してみようかな…と思うなら、何度も言いますが『全日本学生美術展』がオススメです。

賞状がもらいやすいですから… 😅


全日本学生美術展の展示について

さて、その全日本学生美術展ですが、展覧会自体は少し見づらいんですよ、展示が… 😅

まぁ、これはしょうがない。

というのも、出品カテゴリーが2種類ありまして、油絵やアクリル画などのキャンバス作品…あるいは水彩などのパネル水張り作品…のような厚みのある作品での出品は『仮縁』部門。

4切くらいの画用紙やケント紙、B3のイラストボード等の薄手の作品は『台紙』部門。

台紙部門の問題点

この台紙部門の方が見づらいんですよ。

とにかく大量の作品を飾らなきゃならないんで会場の壁面の上から下まで何枚も台紙を連結して吊り下げてます。

最上段はオペラグラスなどを持って行かないと見れません。

学年でカテゴリーを区切っていないため…高校生でも台紙部門には出品可能なんですが、やはり台紙部門は “中学生以下までの活躍の場” ととらえて、高校生は仮縁部門に専念していただきたい…というのが3ダースの本音です。

ちなみに、仮縁部門の展示は普通に見やすいですよ。


画題札改善プロジェクト

でもね、以前はとんでもなく見づらい展示でした…、仮縁部門も…。

30年前と同じ展示方法

作品搬入前に出品者が記入しておく用紙が2種類ありましてね。1枚は1校分の出品者全員を一覧できる名簿みたいな『出品者目録』。あと、個人個人が作品の裏に貼る『出品票』。

この出品票は横に細長い紙で、左・中央・右の3つの枠にほぼ同じことを書くの。

たしか、学校名と学年と作者氏名と題名。

で、出品票の中央裏面にだけ糊を付けてキャンバスやパネルの裏面に貼り付けて搬入…。

審査に通っていざ陳列って時に、出品票の左の…糊のついていないヒラヒラしてる部分を担当者が切り取り、それをそのまま『画題札』にしちゃうんです。

(こちらの展覧会では、画題札は壁面にゴム鋲でとめるのではなく、作品の仮縁の下に直接貼り付けちゃいます)

これ、3ダースが生徒として個人で出品してた36年前のハナシ。

ところがね、2017年の全日本学生美術展を観覧しに行ったら、1987年頃とまったく同じ展示方法でした 😅

出品者が手書きしたショボい画題札のまんま30年間、やり方が変わってなかったんです!

リーダーへの苦言と提案

30年間まったく進歩して来なかった “現場の意識の低さ” に、3ダース…キレました。

搬出日に現場リーダーの女性に『30年前と同じ…本人手書きの画題札なんて、ひどくね?』と苦言を呈しました。

出品者個人個人がそれぞれ手書きしてるので、とにかく読みづらいんです。

字の大きさや濃さ、太さ、字のクセ、すべてがバラバラですから、読みづらいっていうより、正直言って読めません。

読みやすいように…すごく丁寧に書いてる子なんて1割もいませんし、けっこうな割合の子が鉛筆で書いてるんです。

まぁ、出品者は子供ですから。

たとえボールペンで書いてあったとしても、壁面の上の方に陳列されていたら読めませんね。

『よその展覧会を見に行ってみなよ。今どき本人の手書きの画題札なんてどっこにも無いよ。あんな薄っぺらくて小さい紙に、鉛筆とかで書いてて…。みんな字の大きさや書体がバラバラだからマジで読めないよ』

『そうおっしゃられても、出品目録を手入力なんてしてられないし…』と、リーダーさん。

『でも、何年か前から事前申し込みをウェブで受け付けてるよね? 学校が…学年や生徒氏名や題名を事前にデータで送ってくれてるんなら、ただ単にそれを紙にプリントアウトすりゃあ良いんじゃね? カードに枠を作って、どの欄に何を印刷するかを指定するだけで画題札作れるじゃん!』

『あ、そうか…。私たちが入力する必要無いんだ…』

苦言ではなく提案

3ダースが言う “苦言” は、単なるクレームとは決定的に違います。

必ず “解決方法” までセットにして、文句を言うのです。つまり、これはただの文句ではなく『提案』なのです。

リーダーさんとは普段から友人として交流が有るがゆえの近い距離感で、気軽に苦言を言えたことがきっかけになり、画題札改善プロジェクトは動き出しました。

試行錯誤の3年間

翌年、ラベル用紙にプリントアウトした画題札が登場しました。

ただ、陳列中に画題札部分がカールしてしまい…実質 “失敗” 。

リーダーさんは画題札を今までと違う用紙に変えるのなら、ついでに仮縁下部への貼り付け作業も軽減させようと、ラベル用紙に目を付けたんでしょう。でも、会期中に剥離紙が付いたままの部分があんなに反ってしまうとは計算外だったもよう。

その次の年、3ダースがが指示した厚さのカード用紙を使ってリーダーさんが画題札を作成してくれました。また、3ダースが事前にリーダーさんに伝えておいた “仮縁下部への貼り付け作業に関する幾つかのアドバイス” も現場で活かせてもらえたもよう。

ただ、文字の大きさのシミュレーションを事前にせずに…枠の大きさを先に決めてしまったようで、また “失敗” 。

学校名の枠が小さ過ぎました。正式名称がやたらと長い学校だと、自動的にメチャメチャ小さい字になっちゃうんですよ。

観覧者はまず都道府県名…そして学校名を頼りにご自分のお子さんやお孫さんの作品を探すのです。

学校名が小さ過ぎては役に立ちません。

ついに完成

さらにその次の年で、ほぼ満足できる画題札に落ち着きました。

また、特選の作品には銀の花飾りが、推奨の作品には金の花飾りが…画題札に付けられるようになりました(100円ショップの表彰グッズコーナーにあるような、細いリボンテープで作られた小さな花飾りです)。

それまでは、硬筆展や書き初め展などで作品に貼られるような…金・銀の折り紙で作った “短冊” が、作品にだったか画題札にだったか…貼られていましたので、だいぶスマートでオシャレな展示になったと思います。

じっくり見守る

本来は画題札などのシミュレーションはシーズンオフの時に実行し、使う用紙や枠の大きさや文字のフォントなどを徹底的に詰めておくべきなのですが、リーダーさんも普段は通常業務がありますし…こちらもしつこく進捗状況を確認するべき立場ではありませんから、2度も不成功になったのは残念でしたが…せかさずにリーダーさんをじっくり見守り続けましたよ。


観覧者の視点の重要性

全日本学生美術展を運営してるメンバーは、サクラクレパス関連会社の社員さん達。でも、実質…サクラクレパス社員のリーダーさんがほぼ一人で回してる感じ。

ですので、コトバは悪いですが素人の運営みたいな感じなんです。

専門家っていうか、プロフェッショナルな運営が出来る人間が側にいない…。

また、外部からアドバイスを提供してくれるブレーンも皆無だったのでしょう。

3つの視点

『運営側の視点』、『出品者の視点』、『観覧者の視点』。この3つの視点を持ち込んで意見を戦わせないと、良い展覧会にはなりません。

彼らは、3ダースという “外圧” に接するまで『観覧者の視点』を持つことが出来なかったのでしょう。

画題札こそ、観覧者が読みやすいように作らねばなりません。

会場内のすべての画題札が… “書式や書体が統一された印刷物” なら、観覧者はストレスなく自分の関係者の作品を探すことができるのです。

リーダーの細やかな気遣い

観覧者の視点にようやく気付けて、試行錯誤を経て新しく生まれ変わった画題札には…『佳作』『特選』『推奨』の審査結果をゴム印で押す欄もあるのですが、単に文字(ゴム印)で表示するだけでなく…花飾りのようにひと目でわかるビジュアル的な工夫をしたことは、観覧者にはとてもありがたいことなんです。

文字を読まない限りわかり得ない情報を、ひと目でわかるヒジュアルに変換する。

しかも、金・銀の折り紙による短冊では古臭いし、絵画の展覧会には似合いませんから、オシャレな花飾りを選んだ…。

リーダーさんの細やかな気遣いが見てとれます。

運営側が観覧者の視点を持っていること、そして観覧者の視点をメインに考えること…って、とても大事なこと。

リーダーさんの3年間の努力に拍手を送りたいです。


サクラクレパスへの信頼

3ダースが全日本学生美術展をみなさんにおすすめするのは、3ダース自身がブレーンとして改革に関わり、マトモな展覧会に育て上げたからっていう意味もあります。

また、サクラクレパス社に対する信頼も大きいですね。

サクラクレパスは画材メーカー

サクラクレパスと聞いて『ああ、文房具の会社ですよね?』って思った先生も多いと思いますが、3ダースの認識では、サクラクレパスは画材の会社なんです。

まあ、同業の『ぺんてる』は戦後に文具問屋から始まった会社ですから文具メーカーと言って間違いないでしょうが、サクラクレパスは画材からスタートしてるんですよ。

まず国産クレヨンの製造販売にて1921年に創業。その3年後には油絵具の製造販売も開始。その翌年には世界初のクレパス(一般名はオイルパステル)の発売!

現在…世界で一番水彩絵具を製造販売している(と言われている)画材メーカーでもあり、色鉛筆から油絵具までの幅広い彩色画材を自社工場にて製造販売している…世界で唯一のメーカーでもあるのです。

※ ちなみに、油絵具メーカー大手の某H社も油・アクリル・水彩絵具、色鉛筆、パステル、日本画絵具、木炭、ネリゴムなどに “自社マーク” を付け、手広い商品群を売っていますが…その殆どがOEM生産(他社生産)なんです。しかしサクラクレパスは、なんと消しゴムまで…グループ子会社による “自社生産” です。

サクラクレパスのご用命

みなさん、『サクラクレパス』をご入用でしたら、遠慮なくおっしゃってください。

教材カタログを見ると新日本造形のカタログにしか載っていませんが、サクラクレパスは純粋に画材として…『画材問屋』さんから品物を仕入れられます。

ですので送料なんかはいただきません。

3ダース的には美術出版カタログに出ているぺんてるパステル(あるいはパッセル)よりも、サクラクレパスの方に百倍の信頼を置いております。

【第36回終わり】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

こちらは現在担当しているエリアの方でその方が限定した方にのみ送っているメルマガを許可を頂き配信しております。(管理人より)