第38話_備品の買い取りと減価償却 (げんかしょうきゃく) のハナシ

備品の買い取りと減価償却 (げんかしょうきゃく) のハナシ

 

“キャンバスを張るハナシ” は次回にします。

今回は部活動のマネジメントのハナシと、また懲りずに経済学がらみのハナシです。

前回のメルマガに、美術部所有の木枠に張ったキャンバスの絵が…展示期間が終わったら木枠から剥がされ、木枠は美術部の備品置き場に返却される…という話題がありました。

描いた本人が…どんなに力作だと思っていても、木枠が美術部の備品である限り…無情にも剥がされてしまいます。
剥がしたキャンバスの絵は、自宅に持ち帰っても…キチンと飾ることは出来ません。

再び木枠にうまく張れれば額装も可能でしょうが、よっぽど腕の良い職人に頼まない限り…難しいでしょう。
正直言って3ダースでさえ、剥がしたキャンバスの張り直しは…あまり引き受けたくありません。

 

だ・か・ら、剥がさなければいいんですよ。

3ダース
ね?
簡単なハナシ。

 

つまりキャンバスを剥がさずに、美術部所有の木枠を…美術部員である生徒さんが買い取ればいいんです。

美術部としては、所有していた木枠が部員さんに持って帰られちゃうわけですから…それなりの代金は部員さんに支払ってもらう。
つまり、部から見たら “払い下げ” ですね。

こういうシステムが構築されていれば、何の問題も無いと思いますよ。

 

半年くらい前だったかな?

ある高校の顧問の先生から『ウチの美術部で使ってる仮縁って、ひとつおいくらでしたっけ?』とお問い合わせをいただいたことがあります。
その学校の仮縁は横ビス方式のC‐40。
高美展が終わったばっかりなのに、追加で仮縁が必要になったのかな?…と怪訝に思いながら以前納品した時の納品書の控えを見て金額を伝えました。
そして…わけを聞くと、高美展から戻って来た作品を…仮縁を付けたままで自宅に持ち帰りたい部員さんがいるから、仮縁代をその部員さんからもらうんだ…と。
まさに部員さんによる『備品の買い取り』です。

 

3ダース
なるほど。こりゃあ良いシステムだ!

 

まあ、本来ならその部員さんが…部の備品だった借り物の仮縁を外して部に返却し、個人的に新しい仮縁を購入して作品にはめる…ってのが最も理想的な取り引き形態だと思います。

でも、現在作品にくっついてる備品のC‐40を外して全く同じ新品のC‐40をはめる “手間” を考えたら、今のままの状態で持って帰ってもらう方が面倒も無いし…美術部としても新品の仮縁が備品に加わるんだから良いかな、と考えたようです。

 

さて、この仮縁と同じ考え方を…木枠にそのまま当てはめても良いのでしょうか?

 

3ダース
ダメですよね

 

先程話題に出した学校の仮縁は、ほぼ新品同様。
購入してからそんなに時間も経っていなく…キズや汚れも全く無いので、購入した時の価格で払い下げたのは妥当な判断です。

それに、何年か経った仮縁だったとしても…キズも汚れも無ければ、価値はほとんど下がりません。
金属製の仮縁は…乱暴に使ってさえいなければ経年劣化もほとんどありませんから、ヘタに値引きして払い下げてしまったら…新しい仮縁を買う費用に足りません。

 

じゃあ、木枠も同じように新品の値段で払い下げるべきでしょうか?

3ダース
いえいえ、とんでもない!
ダメですよ、絶対!

木枠は仮縁とは異なり、モロに “消耗品” です。
(第26回参照)
木枠はキャンバスを張るたびに著しく劣化します。そして、耐用年数を超えたら価値はゼロです。

それを理解せず…耐用年数超えのボロボロの木枠を、新品で購入した時の金額で部員さんに払い下げちゃう顧問なんか…まさかいませんよね?
これ、とっくに車検が切れて廃車同然のポンコツ自動車を、新車当時の値段で人に売り付けるような、極悪非道な行為ですからね。

 

『減価償却』っていうコトバはみなさんもご存知でしょう。
これ、実際には会計上の手続きに使う専門用語 (減価償却費) で…何年にも渡って収益を上げられる資産 (工場の機械とか自動車とか) の購入にかかった支出を、費用として耐用年数に割り当てて配分することを言うのですが、まあ…一般的には『その資産の価値が年々下がっていく』…という考え方を説明する時に使われることが多いかと思います。

例えば120万円の自動車を買って5年間使って仕事をする場合、毎年ごとに24万円の費用がかかるとして帳簿上では計算します。
(これは、あくまでも税法上の計算です)
これに従えば、車の価値も毎年24万円ずつ下がっていき、5年経ったらゼロになると考えることができます。

 

でも木枠の持つ価値の減り方は、こんな直線的にはなり得ませんよねぇ。

例えば12,000円で購入した木枠を5年間 (5回) 使うとすれば、1年 (1回) あたりに下がっていく価値が2,400円だなんて、そんな単純な計算じゃあありません!

キャンバス用の木枠は…使う前はキズひとつない状態ですが、たった1回使っただけでキズだらけ…釘穴だらけになりますでしょ?
つまり、最初の1年 (1回) でだいぶ価値が下がるんです。

みなさんも、誰かに1回使われちゃった中古の木枠を…未使用の価格の2割引き程度の値引きくらいで買うなんてバカなことはしないはず。
たとえ3割引きされたとしても “高い!” って思うでしょう。

つまり1回使われた木枠は、とても大きな価値を…いきなり失っちゃうんです。

そして、2回目以降の価値の下がり方は…ゆるやかになっていくでしょう。

 

ちょっとみなさんのためにモデルケースを計算してみましたよ。

例えば12,000円で買った木枠、最初の1年 (1回) で減る価値は…
3ダースは4,400円と考えます。

次の1年で減る価値は…
3,100円。
つまり2年経つと半分以上の価値が失われると考えます。

その次の1年で減る価値…
2,100円。

次の年…
1,400円。

次…
1,000円。

3ダース
この5年間で価値はゼロになります。

理想の張り具合いを求めてしっかりとキャンバスを張ったなら…5年 (5回) で木枠はボロボロになりますからね。

埋め木やヤスリがけなどのメンテナンスをしたとしても毎回毎回メンテナンスの手間 (コスト = 費用) は増えていくのが当然ですから、減っていく価値をメンテナンスの費用が追い抜いてしまい、メンテナンスをする意味がなくなってしまいます。
ですので、最初からメンテナンスをしない前提で計算しました。
(だって、美術部員さんはメンテナンス能力…有りませんからねぇ。もし…何かメンテナンスをする気が有るのなら、木枠ではなく仮縁をキレイにしましょうよ)

 

さて、先程書いた金額が…その時点での木枠の買い取り価格 (美術部側から見たら払い下げ価格) じゃないですよ 

3ダース
あせらないで。

あくまでも、『減る価値』ですからね。

 

では具体的な説明を…。

 

例えば12,000円で新しく木枠を買い揃えた最初の年に…高美展で力作を描いた部員さんが展覧会後に『木枠を買い取りたい』と言って来たのなら、この木枠は高美展に使われたことにより4,400円の価値が減っちゃってるわけですから、
12,000 – 4,400 = 7,600 。
つまり買い取り価値は
7,600円です。

新品の購入金額の3割引き (8,400) より安くなってます。
まぁ、このあたりが妥当な金額だと思います。

おそらく、ほとんどの顧問の先生は『このタイミングでの払い下げなら12,000円じゃないの?』って思うことでしょう。

ダメダメ、違いますよ!
だって、一度 “部活動のため” に使われちゃってるんですから、当然購入価格のままの12,000円で払い下げたのでは高過ぎ!
そんなことしたらボッタクリです。

12,000円で払い下げが可能なのは…一つの釘穴も空いていない、完全に未使用の木枠だけですからね!
勘違いしないように!

キャンバス用の木枠の減価償却グラフは添付画像のような… “曲線” と言ってしまっても良いような、“段階的な直線” になるんです。
こんな美しいグラフ…3ダースの他に描けるヒト、いますか?
(なお、斜めに引かれた点線は…毎年2,400円で価値が下がっていくと想定した場合のグラフです)

 

美術部は…1回使われた木枠を部員さんに払い下げ、代金として7,600円を手に入れても…その代金だけでは新品の木枠は買えませんよね?

それは “当たり前” です。
払い下げられた木枠が “美術部の所有物” だった時、その木枠は4,400円分の役目を果たしていたんですから…。

なので…部の予算からその分の4,400円を足し、12,000円の木枠を再び買うことになります。
当然、新しく買い足された木枠は耐用年数がフルに残っていますから、前に払い下げられた木枠を美術部が使い続けた場合より…1年余計に働けるのです。

 

払い下げの時点で、すでに2回の仕事を済ませた木枠の価値は…
12,000 – 4,400 – 3,100 = 4,500 。
ですから4,500円で払い下げ可能です。
新品購入金額の半額以下になりましたね。

3回仕事をした木枠を払い下げるなら…
12,000 – 4,400 – 3,100 – 2,100 = 2,400 。
つまり2,400円。
そんなもんでしょう。妥当です。

4回仕事をした木枠を払い下げるなら…
たったの1,000円です。
だいぶ安くなってますが、これも妥当な金額でしょう。
普通に考えて、4回も使われたボロボロな木枠を1,000円以上出してでも買いたい…っていう珍奇なヒトは、そうそういないと思いますよ。

5回…つまり耐用年数の5年をフルに働いた木枠は、『無料放出』となります。
これも妥当だと思います。

普通に50号クラスの木枠を廃棄するにしても、所定の長さ以下に切断しなければ業者さんが回収してくれない…っていう場合が多いでしょう。
タダで部員さんが引き取ってくれるなら、美術部と部員さんがお互いにウィンウィンになる…と考えるべき。

 

部の備品棚には、払い下げ後に補充購入した新品の木枠や、誰にも買い取られずに3年4年経過した木枠、そして耐用年数を過ぎた木枠が混在することになるでしょう。

高美展 (あるいは文化祭) 前に…大きな作品を描きたい部員さんを集め、展覧会後に絵をそのままの状態で持ち帰りたいのであれば…木枠を買い取る事ができる、ということを説明します。

『今年度に購入した新品の木枠を使う場合は、展覧会終了時に1回仕事を終えたことになるので、買い取り価格は7,600円です。(購入価格が12,000円の木枠だとしての計算)
過去に1回使われた木枠はこの展覧会が終わった時点で2回働いたことになるから買い取り価格は4,500円です。
すでに2回使われた木枠はこの展覧会が終わった時点で3回働いたことになるから買い取り価格は2,400円です。
3回使われた木枠は、展覧会終了時に4回仕事をしたことになるので…買い取り価格は1,000円です。
もう4回も使われてる木枠は、この展覧会で5回目のお役目が終わったことになるから無料で放出できます。
ですから、使いたい木枠を各自で選んでください。
当然、高い値段の木枠はまだ新しいから張りやすいと思います。
値段が安くなればなるほど…木枠はボロボロで張りにくいでしょう。なぜなら私達はいちいちメンテナンスをしてませんから』…と。
このように…部長さんか部の会計さんが説明し、備品の管理をしてくれるのが理想のカタチでしょう。

3ダース
この『段階的な払い下げ価格』であれば、前回話題に出た “学年間格差” というものも発生しません。

条件が良く…使いやすい木枠は買い取り価格が高く、ボロボロで使いにくい木枠は買い取り価格が安いんですから…。
おそらく、古くて耐用年数がとっくに切れた木枠から順に部員さん達に選ばれ、逆に新しい木枠は買い取り価格の高さから敬遠され…美術部の備品としての現役生活を長く続けられることでしょう。

 

また…木枠を買い取りたくない部員さんは、無理に買い取る必要はまったくありませんよ。
今まで通り…展覧会が終わったら剥がして巻いて持ち帰ればよろしい。

 

以上、これが『美術部所有の木枠を使って手張りをする場合』の…3ダースが考えた最もスマートな形態です。

別に、みなさんがこのやり方に従う必要なんかは…まったくありませんからね。

実際、3ダースの理論がご理解いただけていないのならば、運用は不可能でしょうし…。

今まで通り、全員の絵を剥がさせるのも良いでしょう。

また、“トータルで見たら一番安い…といわれる張りキャン” に乗り替えるのも良いでしょう。

まあ今回のメルマガは、どうやって備品を管理するのか…という事に関するアイディアの一端を、みなさんに知らせたかっただけ。
もし何かの役に立ったのであれば…3ダースは満足です。

【第38回終わり】

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