油彩画は、数百年の間に多くの変化を重ねてきました。
かつては画家自らが作っていた絵具やキャンバス等の材料も
現在ではすべて画材店でそろえることができるようになりました。
お任せください!
総合画材問屋の立場から私たちが日頃気軽に使っている油彩画材料を自分なりにわかりやすくまとめ
解説していきます。
チューブ絵具も巨匠たちの努力と知恵の積み重ね結集です。
それを正しく理解することは表現や描写を豊かにするうえでとても重要なことだと思います。
この記事が皆様の指標になれば幸いです。
1.油彩画について
1-1.油彩画について
「絵画で表現をしよう」と考えたときに油絵具は最も可能性と多様性に富み、
様々な表現をすることが可能な技法と材料といえます。
–油彩画の絵画表現には、大きく分けて4つの要素–
①明度→物の明るさや暗さ
②色彩・彩度→色相の幅、色彩の鮮やかさ
③質感表現→艶、艶なし、透明、不透明
④量感の表現→実在感・立体感。
→油絵具は、これらの全ての要素において、高いレベルで表現することが可能です。
特に、③質感表現と④量感表現においては、他の画材に追随を許さない特徴があります。
1-2.絵画表現の基準は油絵具
世界中の絵具メーカーは、常に新しい画材を開発し発表しています。
そして常に「油絵具に比べて負けない表現が可能か」/「油絵具に近い表現が可能か」
という事を意識していると思われます。
油絵具を超える画材を開発することがメーカーの大きな目標だといってよいでしょう。
1-3.油絵具を凌ぐ画材は開発されない
このような開発は、材料的な特徴から見た場合、これら新画材が油絵具を凌いだことはありませんし個人的には無理だと思います。
ただ、最近は油彩に対しての様々なマイナスイメージや「油彩は大変なので水彩にしましょう」的風潮によって、油彩画のシェアが縮小してい
るのは小売店の売れ行きをみていてもわかります。
しかし、油彩画が表現の基準であることは変わりません。
絵画初心者が何らかの理由で油彩画以外で絵画を始めたとしても絵に対する興味が増してくれば
必ず「油彩画を描いてみたい」と思うことでしょう。
そうした観点から「油彩技法は絵画表現の最終目標」といってよいと思います。
油彩画をきちんと身につけていれば、クレパスやパステル、コンテ、テンペラ、アクリル、ガッシュ等応用で使うことができます。
2.油絵具の特徴
2-1.油絵具の特徴
油絵具が数百年もの長きにわたり人気を保ちつづけている理由の一つは、驚くほどの融通のきく描画材料で、
実に様々な用途を持つ点にあります。
そして、他の描画材料と大きく異なる特徴の一つは、色の鮮やかさと深みにあります。
油絵具の手応え十分な表現力は、乾燥がゆっくりな特徴を活かして、一度塗った色でも後で修正がきき、
画面上の位置をずらす事が可能な点にあります。
いったん乾いた絵具は、その上に重ね塗をしても何ら影響はなく、もとの色がにじむような心配もありません。
つまり、何層にもおよぶ複雑なきわまりない絵具層を築けるわけで、そこから様々な表現効果がもたらされるのです。
絵具は、顔料を練り合わせる媒材(接着剤)の違いによって、ガッシュ、水彩、テンペラ、油絵具などの違いが生じます。
ガッシュと水彩では、アラビアゴムが、
テンペラでは、卵白媒材として用いられ、
油絵具では、リンシード油、ポピー油などで練り合わせられています。
油絵具は絵画の材料としては、光や湿気に対して耐久性が強く、表現の巾も広い。
したがって、ルネッサンス後期頃より徐々にテンペラにとってかわり、
18世紀以後、現代に至るまで欧米においてはほとんど絵画材料の本命とされてきました。
わが国でも明治初年にヨーロッパの描画技術の導入と共に使われだし現在に至ります。
2-2.日本を代表する油絵具メーカー「クサカベ」
ここでは代表的な油絵具メーカー「クサカベ」を紹介致します。
■クサカベ油絵具カラーチャート
6号全168色 9号全165色 20号全83色
■ミノー油絵具リスト
全78色 20ml(#6)
■微香性油絵具 「Zephyr(ゼファ)」(新商品)
「描く人」も「描かない人」も 快適にをキーワードに開発された「Zephyr(ゼファ)」。
においを我慢しないで日常の生活のなかで自由に油絵が描け、
家族にも快適な環境のままで制作できたら素晴らしい。
そんな希望を形にした微香性油絵具です。
全48色
■大容量油絵具「スタンダードオイルカラー」
全36色
■ギルド油絵具リスト
6号 全12色 高純度特練絵具
以上、さすが日本一の油絵具メーカーさんだけに色々考えられた素晴らしい商品がいっぱいあります。
ご興味ある方はご参考にして見てくださいね。
3.画溶液について
3-1.画用液の種類について
油彩画で使用する画用液(その他を含む)を大きく分類すると4つ(+3つ)に分かれます。
- 乾性油
- 揮発油
- 調合溶き油
- 助剤
- 画面保護材
- 補助材
- 金箔
3-2.乾性油 Drying Oils
乾性油は空気中において常温で固化する性質の植物性の油です。
油絵具の固着材であり、顔料を乾性油で練ることによって油絵具となります。
これを絵具中に多く含めるほど、透明感や光沢が増し、油絵らしい画面になります。
代表的なものにリンシード油、ポピー油、サフラワー油等があります。
乾性油は日に晒したり、熱したりすることによって性質が変わります。日に晒して加工したサンシックンド油、
空気を遮断して熱したスタンド油、これにより耐久性や光沢が増します。
代表的な商品
・リンシードオイル
・ポピーオイル
・スタンドオイル
・サンシックンドリンシードオイル
・ベネチアテレピン
・ダンマルバニス
・マスチックバニス
3-3.揮発油 Solvents and Thinners
水彩絵具では水が果たす役割を、油絵具ではテレピン油、ペトロール等の揮発性の精油が果たします。
揮発油は、乾性油とは異なり、固まらずに揮発してなくなります。
サラサラした液状で、これを絵具に混ぜると粘度が低くなり伸びがよくなります。
ただし、これを多く含めるほど、乾燥後の画面は光沢がなくなり、耐久性が失われます。
溶解能力があるので、樹脂を溶かしたり、調合溶き油を作成するときにも重要な役割を果たします。
代表的な商品
・テレピン
・ペトロール
・無臭ペトロール
・ホワイトシッカチーフ
・ブラウンシッカチーフ
3-4.調合溶き油(樹脂)
樹脂にもたくさんの種類が存在し、それぞれ性質や画面にあたえる効果が違います。
代表的なものに、ダンマル樹脂、コーパル樹脂などがあります。
これらは天然のものですが、近年開発された、アルキッド樹脂等もあります。
油彩画では普通は乾性油や揮発油と混合し、調合油として使います。
代表的な商品
・ネオペインティングオイル
・ペインティングオイルスペシャル
・ペインティングオイルクイックドライ
・ダンマルペインティングオイル
・コーパルペインティングオイル
・ライトアロマペインティングオイル(フレッシュ)
3-5.助剤
絵具の性質を調整するものです。乾燥促進剤、形成助剤、防腐剤などです。
市販のチューブ絵具には、このような添加物がたくさん含まれいます。
代表的な商品
・超速乾メディウム
・クイックドライングメディウム
・クリスタルメディウム
3-6.補助材・画面保護材
上で紹介した基本的な材料をもとにさまざまな目的のための画用液を作ることが出来ます。
①描画用バニス
乾性油、樹脂、溶剤などをちょうど良く配合し、描画するときに絵具に加えるのに適している画用液です。
代表的な商品
・グレージングバニス
②加筆用バニス(ルツーセ)
油絵具の皮膜は完全に乾燥してしまった場合、その上に絵具を重ねるとはじいてうまく描けないことがあります。
また、乾燥する前と後では、絵具の色が微妙に変化するので、乾いた画面に正確な色を置くのが難しくなります。
そのような場合に、画面に加筆用バニス(ルツーセ)を塗布し、画面を濡らすことで作業しやすくすることができます。
代表的な商品
・ルツーセ
③保護用バニス(タブロー)
油絵具は完成した後に、大気中のガスや埃などから画面を守るために保護用の薄いニスを引きます。
通常は、ダンマル、マスチックなどの再溶解性のある樹脂をテレピンで溶解したものを塗布します。
保護ワニスが汚れた際にテレピンなどで洗い落とし、再び塗りな直すことができます。
最近は再溶解性のある合成樹脂が使われるようになってきました。
代表的な商品
・タブロー
・タブロースペシャル
・クリスタルバニス
・グロッシーバニス
3-7.補助剤
①剥離材
キャンバス、パレット、またはペインティングナイフ、筆などの道具類から、乾燥してしまった油絵具を剥がす際に使用します。
代表的な商品
・ストリッパー
・リムーバーK
②定着材
木炭・鉛筆・コンテ等の、固着性に欠くきらいのある色材(時に油彩画下描き)を画面定着させる素描用材。
代表的な商品
・フキサチーフ
3-8.金箔貼付用メディウム
油による金箔貼り付けを行う際に使用する画用液です。
メーカーにより様々なものが販売されていますが、乾燥が速く接着力の強力なコーパルメディウムを含むものが一般的なようです。
ゴールドフィンガー・ジャパンゴールドサイズなどの商品名で販売されています。
代表的な商品
・コーパルペインティングオイル
・ゴールドフィンガーワニス
4.ホワイトについて
4-1.油絵具の白
ホワイトには、大きく分けて5種類あります。
油絵具のホワイトは、他の色彩色と混ぜて明度を上げることにも使われますが、
画面を構築する素材としても重要で、どの工程でどのホワイトを使うかを知ることは、表現の幅を広げます。
ここでは各ホワイトの説明をしていきます。
4-2.シルバーホワイト
古代から使われてきた代表的な白で、とくに油絵の世界では19世紀頃まで、これが唯一の白絵具でした。
乾燥が速く、丈夫な皮膜を作ります。混色制限、および毒性がある 地塗り材として最適で、下描きで厚塗りするのにも向いています。
また、チタン白のように着色力が強くないので、混色の際失敗が少なくなります。
混色制限ですが、カドミウム、バーミリオン、ウルトラマリンとの混色で、変色する可能性があります。
これは鉛と硫黄が反応して硫化鉛(黒色)が出来るためです。これは各メーカの混色制限表で確認することが出来ます。
しかし、現代の良く精製された絵具ではまず変色は起きないと言われています。
また、鉛白は大気中の硫黄性ガスによって黒変することがあります。
完成後はタブローなどによる画面の保護があると完璧です。
グレース技法では、透明度の強い絵具に混ぜることによって、透明度を弱めることが出来ます(他のホワイトでは白濁してしまいます)。
グレース技法をやっていて、色が着き難いと思ったときは、シルバーホワイトをほんの少し混ぜるとちょうど良い被服になります。
グレース技法
参考:油絵の技法は数知れず!11個の古典技法から現代の表現まで解説!
シルバーホワイトはフレークホワイト、クレムニッツホワイトなどと呼ばれることがあります。
これらの名称の使い分けは、最近はかなり意味不明になってきています。
最近の輸入品では、同じメーカーでもシルバーホワイトとフレークホワイトという二種類の絵具が並んでおり、
フレークホワイトのラベルを見ると、鉛白と亜鉛華の混合だったりすることがあります。
もう一方のシルバーホワイトは、鉛白のみで構成されていることが多いようです。
これは欧米では環境への配慮のために純粋な鉛白の絵具を出荷するのが難しくなっているためでしょう。
亜鉛華が混ざれば当然、絵具の質は大きく落ちるので、これを選ぶ理由はほとんどないと言えます。
クレムニッツホワイトは、クレムニッツ法と呼ばれる方法で作り出した鉛白で、白色度が高いなどの特徴がありますが、
これもラベルにクレムニッツ白と書いてあるからといって、本当にクレムニッツ白であるかどうかは微妙なところです。
鉛白には様々な製法があり、大手メーカーでは生産効率の良い製法を採用し、質の方は軽視されがちです。
その点にも配慮して、事情通の人に尋ねるなどして、信頼できるブランドのものを選ぶとよいでしょう。
4-3.ジンクホワイト
ジンクホワイトはシルバーホワイトよりも、さらに透明感があり、着色力も白絵具の中で最も弱く、混色がスムーズに行なえ、また毒性や混色制限もありません。
色は若干青味がかって、ジンクホワイトで描いた画面は、引き締まった感じになります。
その為、19世紀に発明されて以後は、代表的な白として広く使われてきました。
しかし亀裂、剥離などが起こるので、実際には油彩技法ではあまり薦められない白です。
最近では新しく調整されて登場した他の顔料があるので、とくにその色味が必要でないなら、無理に使用する必要はないと言えます。
乾燥の過程で亀裂、剥離等が起こるので、圧塗りや、下地には向きません。
特にジンクホワイトの上に上塗りは剥離を起こしやすくします。仕上げ作業か、ハイライト部分の使用に制限される白です。
4-4.チタニウムホワイト
チタニウムホワイトは毒性や混色制限がなく、亀裂、剥離、変色もないので、下描きから上描きまで使用出来ます。
ただしシルバーホワイトのように乾燥を速める効果はありません。
乾燥速度はすべてメディウムに左右されると言えますが、白絵具は通常ポピーオイルで練ってあることが多いので、
かなり遅いと言えるでしょう。
チタン白は白色顔料の中でも最も着色力、隠ぺい力が強い白です。
逆にそのせいで、他の色と混色するのが難しく、少し混ぜただけで絵具が白濁してしまいす。
チタン白の着色力、隠ぺい力を標準に押さえたのが、パーマネントホワイトです。
4-5.パーマネントホワイト
画材メーカー各社がパーマネントホワイトという名称で販売している絵具は、チタニウムホワイトの着色力を抑えた製品です。
その方法は、顔料の粒子を細かくするなどして性質を変えたもの(ホルベイン等)や、チタニウムホワイトに体質顔料を混ぜただけのもの(クサカベ等)があります。
毒性もなく、着色力も普通で使いやすいので、初心者に最適です。
4-6.ファンデーションホワイト(地塗り)
ファンデーション・ホワイトは地塗り用の白です。
展色材としてポピー油よりも乾燥の早いリンシード油を使用しています。
そのため、黄変することがあります。
シルバーホワイトと同様の毒性、混色制限があります。
5.その他道具について
5-1.キャンバス
一般的には麻布が多く、画面には白い目止めの絵具が塗ってあります。
船岡さん倒産後油性キャンバスだったMFがなくなりアクリル兼業キャンバスが現在主流です。
それ以外にキャンバスボードとペーパーキャンバスボードがあります。
両方とも圧縮したチップボールしたアクリル兼業生地とペーパーキャンバス生地を膠張りしたものです。
張りキャンバスに比べ安価で学生さんに人気があります。
5-2.パレットナイフ・ペンティングナイフ

パレットナイフは、パレットを掃除したり、絵の具を混ぜ合わせたりするのに用います。
ペインティングナイフは、筆の代わりに用いたり、絵の具を盛り上げたり、あるいは絵の具を掻きとったりするのに用い、
筆とは違った効果が得られます。
ご参考に!
5-3.油壺
絵画用の液体を入れる容器。金属製や陶器製がある。
特に日本では、これ以外にディステンパー用の「とき皿」も似た役割を果たす道具として使われている。
5-4.パレット
油彩画用のパレットは、油絵具を使用した制作において、様々な色彩の絵具を並べ、混色や練りの調整などを行う際の土台となる用具です。
パレットは、描画材の性質により、形態や材質が異なります。油絵具用のものは、平滑な面を持った板状のものが一般的です。
形状は、楕円形のオーヴァル型、雲形のフランゼン型、角形のオブロング型、
角形の二つ折型(使用時は、裏表に注意しましょう)などがあります。
材質は、桜、桂、マホガニーなどの硬質な木材が主に用いられています。
しかし、現在はこれらの木材を表面にのみ使った合板製のものが普及しています。
また、最近ではペーパーパレットと呼ばれる紙製のものがあります。
表面コーティングされた数十枚の紙が冊子状になっていて、使い終わる毎に1枚ずつ捨てるため掃除の手間が省けます。
ただ、耐久性がなく、残った絵具も捨ててしまうため効率的ではありません。
個人的には作ったことはありませんが自分でやるかたも多いみたいです。
先輩から教わったやり方は、合板を買ってきて、暖色系の中間色のニスを一層ぬり、
その後はリンシードオイルと樹脂を混ぜたものを根気よく塗れば出来上がるそうです。
片面だけの塗装では木が反ってしまうので裏表ニスを塗ること。
薄すぎる合板では反りが出過ぎるので気をつける事がポイントらしいですよ。
ご興味ある方は試してみてくださいね!
5-5.筆洗液

洗浄力が高い油絵具の洗浄液。筆を痛めない高純度な溶剤を使用しています。
また、最近では住宅事情などを考慮した無臭タイプもあります。
溶剤臭なく、有害性が低い洗浄液で洗浄力は従来品に比べるとやや弱いです。
処理の仕方としては市販の油処理材があります。固めるものと吸わせるものがありますが、画材店で入手できます。
吸わせるタイプのほうは、スーパーで売っている食用油を処理するものでも使えます。油を加熱してから固めるものは危険ですから、
かならず常温で処理できるものを使ってください。なお、リンスいりのクリーナーは、固めるタイプが効きません。
吸わせたり固めたりして処理したものは可燃ゴミとして回収に出します。
6.まとめ
いかがだったでしょうか?
画材屋さんに行くと多種多様な油絵具メーカーを置いてあります。やはり専門店さんも
油絵具=画材材料
という認識が強いようです。
油彩画を取り巻く環境は年々厳しくなっていますが絵画作品などを観るとやはり油彩画がやりたいと思う気持ちも
分かります。
歴史が証明してきたようにこれからも洋画材料の中心的存在であることは変わらないでしょう。
補足ですが、「洋画筆編・油彩筆」にのっている筆をさらに絞った表とクサカベ工業見学ツアーの動画
を作成しましたのでご参考にしてみてください。
6-1.おすすめ筆
6-2.おすすめ動画
クサカベ絵具工場ツアーの動画です。ご参考にしてみてくださいね。

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